[PA-3-2] ポスター:脳血管疾患等 3脳卒中後左片麻痺を呈した蕎麦打ち職人に対するCI療法のコンセプトに基づいた介入の試み
【はじめに】エビデンスが確立された脳卒中上肢麻痺の治療にConstraint-induced movement therapy (以下,CI療法)がある.その下位概念である課題指向型アプローチは,目標の環境条件に類似した状況の中で直接的にスキルを高めることを目的としている.今回,回復期病棟に入院した蕎麦打ち職人の左片麻痺事例に対して,早期から復職の目標を共有して,難易度に配慮した実動作練習を反復するなどCI療法のコンセプトに基づいた介入を行った結果,上肢機能や生活における麻痺手の使用頻度が改善し,手打ちの蕎麦屋に復職するに至ったため報告する.本報告は,当院倫理委員会の承認を得た.また,ヘルシンキ宣言に則り,患者に対して十分な説明を行い,書面による同意を得た.本報告について発表者らに開示すべき利益相反関係にある企業はない.
【事例紹介】40歳代の右利き男性.既往に高血圧症と脂質異常症があった.入院前は,手打ちの蕎麦屋を経営していた蕎麦打ち職人だった.今回,散歩中に突然倒れて右被殻出血と診断され,保存的に治療された.第25病日に,当院回復期病棟に入院した.本人は,退院後の職場復帰を希望した.入院時は,上肢の運動麻痺の程度を示すFugl-Meyer Assessment (以下,FMA)の上肢運動項目は27/66点.麻痺手の使用頻度を示すMotor Activity Log-Amount of use(以下,MAL-AOU)は0.1/5.0点.麻痺手の使用の質を示すMotor Activity Log-Quority of movement(以下,MAL-QOM)は0.1/5.0点.ADLは食事以外に介助が必要.FIMは72 (運動45,認知27) /126点だった.Mini Mental State Examinationは30/30点で,目立った高次脳機能障害の所見はなかった.
【方法】Takebayashiら(2011)のCI療法を参考に内容を修正した.面接を行い,蕎麦屋に復帰するために必要な動作(煮干しの腹わたをとる,蕎麦粉を練る,出し巻き卵を作る,など)を含む目標動作を10個設定した.その中から早期に達成できそうなものを目標に介入を開始した.上肢は屈曲パターンの異常筋緊張の影響で物品の操作が困難であったため,電気刺激や装具を併用して集中的に課題指向型アプローチを行った.復職に必要な動作については,早期から難易度に配慮した実動作練習を繰り返し行った.また,麻痺手の機能を生活に反映させるため,生活の中で麻痺手を使用する場面(下衣の上げ下げ,手洗い,洗体,など)を設定して,練習日記を作成した.使用感に関するモニタリングを促し,達成したものは新しいものに修正した.さらに,リハビリ以外の時間に自主練習を行うように指導して,練習量を確保した.【結果】X+180日で,麻痺手は実用手レベルになり,FMAは60/66点に改善した.MAL-AOUは4.4/5.0点,MAL-QOMは4.0/5.0点.FIMは124 (運動89,認知35)/126点.ADL,IADLが自立した.蕎麦打ちなど復職に必要な動作が麻痺手を使用して可能になり,復職に至った.
【考察】本事例は,経過の中で上肢機能と麻痺手の使用頻度が改善した. Seltonら(2001)は日常生活における意味のあるFMAの変化量として10点を,Van der Leeら (1999)はMAL-AOUの意味のある変化量を0.5点と報告しており,今回の介入による変化は臨床上意味のある介入であったと思われる. Taubら(2013)は,早期から物理療法や装具療法を用いて,麻痺手を課題指向型アプローチの中で使用することが機能改善や生活での使用頻度改善に繋がると報告しており,今回も同様の改善が見られた.さらに,早期から難易度に配慮して復職に向けた実動作練習を行ったこと,練習日記で麻痺手使用のモニタリングを促して改善した点や課題を明確化したことが,復職に繋がる麻痺手改善に有用だった可能性がある.
【事例紹介】40歳代の右利き男性.既往に高血圧症と脂質異常症があった.入院前は,手打ちの蕎麦屋を経営していた蕎麦打ち職人だった.今回,散歩中に突然倒れて右被殻出血と診断され,保存的に治療された.第25病日に,当院回復期病棟に入院した.本人は,退院後の職場復帰を希望した.入院時は,上肢の運動麻痺の程度を示すFugl-Meyer Assessment (以下,FMA)の上肢運動項目は27/66点.麻痺手の使用頻度を示すMotor Activity Log-Amount of use(以下,MAL-AOU)は0.1/5.0点.麻痺手の使用の質を示すMotor Activity Log-Quority of movement(以下,MAL-QOM)は0.1/5.0点.ADLは食事以外に介助が必要.FIMは72 (運動45,認知27) /126点だった.Mini Mental State Examinationは30/30点で,目立った高次脳機能障害の所見はなかった.
【方法】Takebayashiら(2011)のCI療法を参考に内容を修正した.面接を行い,蕎麦屋に復帰するために必要な動作(煮干しの腹わたをとる,蕎麦粉を練る,出し巻き卵を作る,など)を含む目標動作を10個設定した.その中から早期に達成できそうなものを目標に介入を開始した.上肢は屈曲パターンの異常筋緊張の影響で物品の操作が困難であったため,電気刺激や装具を併用して集中的に課題指向型アプローチを行った.復職に必要な動作については,早期から難易度に配慮した実動作練習を繰り返し行った.また,麻痺手の機能を生活に反映させるため,生活の中で麻痺手を使用する場面(下衣の上げ下げ,手洗い,洗体,など)を設定して,練習日記を作成した.使用感に関するモニタリングを促し,達成したものは新しいものに修正した.さらに,リハビリ以外の時間に自主練習を行うように指導して,練習量を確保した.【結果】X+180日で,麻痺手は実用手レベルになり,FMAは60/66点に改善した.MAL-AOUは4.4/5.0点,MAL-QOMは4.0/5.0点.FIMは124 (運動89,認知35)/126点.ADL,IADLが自立した.蕎麦打ちなど復職に必要な動作が麻痺手を使用して可能になり,復職に至った.
【考察】本事例は,経過の中で上肢機能と麻痺手の使用頻度が改善した. Seltonら(2001)は日常生活における意味のあるFMAの変化量として10点を,Van der Leeら (1999)はMAL-AOUの意味のある変化量を0.5点と報告しており,今回の介入による変化は臨床上意味のある介入であったと思われる. Taubら(2013)は,早期から物理療法や装具療法を用いて,麻痺手を課題指向型アプローチの中で使用することが機能改善や生活での使用頻度改善に繋がると報告しており,今回も同様の改善が見られた.さらに,早期から難易度に配慮して復職に向けた実動作練習を行ったこと,練習日記で麻痺手使用のモニタリングを促して改善した点や課題を明確化したことが,復職に繋がる麻痺手改善に有用だった可能性がある.