第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-4-1] ポスター:脳血管疾患等 4脳卒中地域連携パスを用いた回復期病院退院時のトイレ動作自立の可否の検討~急性期病院でのデータを用いて~

上山 栞1加藤 香奈子1佐々木 亮介1 (1医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院リハビリテーション部)

【背景と目的】高齢化に伴い脳卒中を発症する高齢者が増加し,要介護となった主な原因の第2位は脳血管疾患である.脳卒中ガイドライン2021では急性期,回復期,維持期にわたって,一貫したリハビリテーションを行うことが推奨されており,脳卒中地域連携パス(以下パス)は切れ目のない医療を提供するうえで重要なツールである.脳卒中患者の自宅退院に影響する要因は,身体機能,ADL,年齢,家族状況など様々であるが,ADL自立度が高いほど自宅退院が可能になり,特に影響を及ぼすADLは「トイレ動作」であるとの報告もある.そのため,急性期病院入院中から連携病院退院時のADL遂行状況を予測することは,対象者の将来の生活様式を考慮するためにも重要と考えられる.そこで今回は急性期病院退院時のパスデータをもとに連携病院退院時のトイレ動作自立の可否に影響している要因を検討することを目的とした.
【方法】対象は2011年4月~2021年3月に当院に脳卒中で入院し,回復期病院に転院した65歳以上の患者で,パスデータの返却があったものから,死亡退院例,データ欠損例を除外した256例とした.回復期病院退院時のFIMの「トイレ動作」が6-7点のものを自立群(125名),1-5点のものを非自立群(131名)に分類した.検討項目は年齢,性別,JCS,身体機能(Br.stage上肢・手指・下肢,表在覚・深部覚),高次脳機能障害の有無(失行,失語,失認,注意障害,記憶障害,遂行機能障害),MMSEとした.統計解析は2群間の比較としてカテゴリ変数はχ²検定,連続変数はMann-WhitneyのU検定を用いた.さらに,回復期病院退院時のトイレ動作自立可否を従属変数,急性期病院退院時のパスデータのうち相関係数,効果量を考慮し群間比較にて有意差を認めた項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を用い検討した.解析にはSPSSver.21を使用し危険率5%とした.なお本研究は当院の倫理委員会の承認を受けて実施した.
【結果】2群間比較では,JCS,Br.stage上肢・手指・下肢,上肢表在覚・深部覚,下肢表在覚・深部覚,失認・注意障害・記憶障害・遂行機能障害の有無,MMSEで有意差を認めた.ロジスティック回帰分析における独立変数はJCS,Br.stage上肢,上肢表在覚・深部覚,下肢表在覚・深部覚,MMSEとした.ロジスティック回帰分析の結果は,Br.stage上肢(オッズ比:1.281,p=0.000,95%信頼区間1.172-1.400),MMSE(オッズ比:1.125,p=0.000,95%信頼区間1.074-1.178)であった.
【考察】トイレ動作は,上肢機能に加え座位・立位でのバランス能力を必要とし,他のADLと比べても1日の中で行う頻度が高く,要介助の場合は介助者への負担となり自宅退院が難しくなる.今回,回復期病院退院時のトイレ動作自立の可否に影響している因子としてBr.stage上肢,MMSEが抽出された.上肢の運動麻痺が重度の場合,肩甲帯の支持性が低下することにより,トイレ動作中に上肢の固定ができず姿勢安定にも影響し,さらに,下衣操作や清拭動作も患側上肢の使用が困難なため介助量が増加する.そのため,重度麻痺患者に関してはエビデンスが高いとされている物理療法の併用や直接的なトイレ動作練習を早期から実施することが必要と考えられる.また,認知機能がトイレ動作に影響を与えることが多く報告されている.トイレ動作実施には,尿便意や,一連の動作を順序良く遂行する能力,道順の記憶力などを必要とする.よって,せん妄や低刺激環境による認知機能低下の予防を含め高次脳機能障害面に対しても急性期病院入院中より積極的な介入が必要であると考える.