第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-4-12] ポスター:脳血管疾患等 4病院のホームページ作成の経験を通して意志と習慣化が変容しプログラマーとして復職を果たした事例

村山 潤1田原 正俊1 (1済生会東神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】プログラマーとしての復職を目標としたが,遂行度の低下に起因する自己効力感の低下が課題となった脳血管障害の事例を担当した.当初は復職関連の訓練導入に回避的であったが,段階的な作業経験の提供の中でホームページ(以下,HP)の作成までに至り,その経験をもとに復職を果たした.今回,本事例の介入経過について考察を交えて報告する.なお本報告にあたり口頭で説明し,同意を得ている.
【事例紹介】40歳代男性,診断名はくも膜下出血で,発症90病日後に当院回復期病棟転院となった.病前は賃貸アパートに独居で,職業はスーパーコンピューターの開発に携わっていた.また,休日や仕事後も仕事に関係するプログラミング(以下,PG)の学習に時間を割いていた.
【入院時評価】初期評価は,機能的自立度評価表の合計が122点と入浴以外は病棟自立であったが,Trail making test part-A(TMT-A)が59秒,part-B(TMT-B)が199秒と共に異常判定であった.面接では,現職への復帰希望を語った一方で,復職に関連した話題や訓練には回避的であった.作業療法ではプログラマーへの復職を長期目標として介入を開始した.
【介入経過】介入当初は注意機能改善の訴えが強く,抹消課題などに時間を要すと,現状を極端に悲観し,一般自己効力感尺度(GSES)は5/16点と低く,復職を諦める思いに駆られていた.そこで,潜在化しているニーズを明らかにするため,作業に関する自己評価(OSA-Ⅱ)を実施し,目標と介入方針を検討した.OSA-Ⅱは価値と有能性において乖離があり,特に意思の項目で最も乖離していた.さらに,有能性が低く,変化を望む項目は「好きな活動を行う」「能力を発揮している」が挙げられた.復職は価値の高い作業であったが有能性が低く,回避的であったため,復職に必要なPGに関連した訓練を段階的に提供し,意思と習慣化の側面からの介入を検討した.まず,面接の中で,病室でPG学習をしていることが語られたため,学習内容を訓練内で実践することを提案した.PG訓練を短時間から開始したが回避的な反応はなく,PGに関する話題が増え,事例は知識をセラピストに語った.PG訓練の時間も徐々に増え,事例は「作品を作ることが1番練習になる」と語った.入院2か月後にはセラピストと協業しながら“入院患者のためのHP”を作成することとした.復職を想定し依頼内容や納期を設定し,訓練時間外で作成を進めた.他にも,スケジュール管理,デザイン構成の打ち合わせを模擬的に実施し,代診時にHPを披露する機会を設けた.GSESは12/16点と向上し「完成すると嬉しい,なんとか仕事に戻れそう」と意欲を語った.
【退院時評価】OSA-Ⅱはすべての項目で,乖離状態が是正し,変化を望む項目と環境の項目でも有能性が向上した.また,TMT-Aが32秒,TMT-Bが58秒と共に正常判定となり,206病日目に自宅退院した.退院後の復職面接では入院中に作成したHPを資料として持参し,その後,プログラマーとして再就職を果たした.
【考察】本事例にとって価値の高いPGの遂行度の低下は,事例には受け入れがたく,自己効力感の低下と回避的な反応になったと考えられた.段階的な作業の提供はスモールステップでの達成感を得ることが可能であり,自己効力感の向上とPGへの意欲に繋がったと考えられる.さらに,HP作成という新たな作業にまで展開し,復職にむけた具体性のある介入に繋がったと考えられる.加えて,本介入は事例自身がPGの価値を再認識し,習慣の再構築と作業遂行能力を客観視するためにも有用であり,復職においても訓練での経験と成果物は有効的に作用したと考えられる.