第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

Fri. Sep 16, 2022 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-5-1] ポスター:脳血管疾患等 5回復期リハビリテーション病棟入院中にリドカイン注射液と随意運動介助型電気刺激装置を用いた治療を行った右片麻痺例

加古山 悟1馬淵 拓実1横関 恵美2菱川 法和3前田 博士1 (1京都地域医療学際研究所がくさい病院 回復期リハビリテーション部,2京都府立医科大学附属病院リハビリテーション部,3京都府立医科大学大学院リハビリテーション医学)

【はじめに】痙縮は随意運動や日常生活活動(ADL)を制限する.治療にはA型ボツリヌス毒素等の薬物が推奨されているが,回復期リハビリテーション病棟入院中,薬価が問題となり経口筋弛緩薬を用いるのが一般的である.しかしながら有害事象も多く,より安全な代替薬の投与が期待される.また薬物単独では随意運動やADLの改善が不十分であり,作業療法との併用が必須である.局所麻酔薬であるリドカイン注射液と随意運動介助型電気刺激(IVES)装置を用いた治療を併用した回復期右片麻痺例を経験した.
【症例紹介】左視床出血後,47病日が経過した50歳代男性を症例とした.右上肢はStroke Impairment Assessment Set(SIAS)運動機能2-1a,Fugl-Meyer Assessment(FMA)上肢17点,Modified Ashworth Scale(MAS)肘関節屈筋2,前腕回内筋3,手関節掌屈筋3,手指屈筋3と痙縮を伴う上肢機能障害を認めた.ADLはFunctional Independence Measure(FIM)運動項目合計が54点であり,とりわけ右上肢を用いた食事や更衣,洗体が困難であった.
【方法】リドカイン注射液とIVESを用いた治療を併用した.リドカイン注射液は0.5%に希釈し右上肢に筋注した.IVESは右手背屈筋に1日20分,計55日間(47から102病日)行った.症例にはインフォームドコンセントを行い自由意思に基づき同意を得た.
【経過】47と57病日にリドカイン注射液を肘屈筋,前腕回内筋,手掌屈筋,深指屈筋へ施注した.施注直後はMAS肘屈筋1,前腕回内筋2,手掌屈筋2,手指屈筋1に軽減した.47から60病日のIVES
は,手掌屈筋における痙縮の軽減を目的としノーマルモードで行った.61病日にSIAS上肢遠位1bと
随意運動が改善したものの,MAS手指屈筋3と痙縮が亢進してきたため,リドカイン注射液を前回部位に加え浅指屈筋へ筋注した.同部位へのリドカイン注射液は,効果が減弱してきた66と72病日に再度筋注した.61から80病日のIVESは,手背屈筋における随意運動の改善を目的としパワーアシストモードに変更した.81病日にSIAS上肢遠位1cと随意運動が改善した.またMAS前腕回内筋2,手指屈筋1と痙縮が軽減した.リドカイン注射液の効果が減弱してきた81と87病日に再度筋注し,102
病日までIVESを継続した.103病日にSIAS上肢近位3,MAS手指屈筋0と随意運動および痙縮が改善した.この時点でIVESを終了し,スパイダースプリントを用いた課題志向型訓練に移行した.103と108,116病日に再度リドカイン注射液を前腕回内筋と手指屈筋以外に筋注した.125病日にSIAS上肢遠位2,FMA上肢37点,MAS肘屈筋0,前腕回内筋1+と痙縮を伴う上肢機能障害が改善した.FIM運動項目85点となり,右上肢を用いた補助箸での食事や更衣でのファスナー操作,洗体が可能となった.なお経過においてリドカイン注射液による有害事象は認めなかった.
【考察】リドカイン注射液や相反抑制が期待できるIVESのノーマルモードは,一時的な痙縮の軽減に有効である.これらの併用により痙縮を軽減できたことは,訓練初期の右手指における随意運動の出現に貢献したと考えた.また訓練中期には,痙縮の変化にあわせリドカイン注射液を筋注し,IVESのパワーアシストモードで治療を行った.回復期片麻痺患者の変化しやすい痙縮にあわせた薬物療法は,IVESにおける筋電位の検出を安定かつ容易にし,反回抑制や右手指の随意運動を促進させたと考えた.以上が訓練後期の効果的な課題志向型訓練につながった可能性がある.リドカイン注射液とIVESによる治療の併用は,回復期片麻痺患者における痙縮の軽減や随意運動の促進,ひいては上肢機能やADLの改善が期待できる安全かつ有効性の高い治療法であると考えた.