第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-5-11] ポスター:脳血管疾患等 5作業療法士が脳血管疾患障害者に対し急性期より作業を用いる意義~作業療法士の語りから~

丸岡 ちひろ1笹田 哲2 (1済生会横浜市東部病院,2神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【 はじめに 】
 近年,国内外の作業療法では作業に焦点を当てた実践が進められている.これより作業療法士(OT)が急性期脳血管障害(CVA)者に対し,趣味や仕事,役割に着目した事例報告も散見されている.しかし,先行研究では疾病治療が中心の時期や患者が心身機能へ関心が高い時期は作業に焦点を当てた介入を実践することは障壁になることが示されている.
 そこで本研究の目的は,OTの語りから急性期CVA者に対してOTがどのような目的で作業を用いているのか明らかにすることである.研究の意義は,急性期より作業に視点を当てた介入が増える一助となると考え,急性期以降の回復期や地域へシームレスな介入に繋がる可能性がある.
【 方法 】
 便宜的サンプリングによりA県内の急性期病院に勤めるOT7名を対象に,半構成的面接を行いICレコーダーで記録した.インタビューガイドをもとに印象に残ったCVA者の介入についてどのような目的で作業を用いたのか聴取した.研究デザインは質的記述的方法を用いて,得られた語りから逐語録を作成し対象者それぞれの語りの文脈や時系列を意識してコードを作成した.つぎに類似するコードを集めてサブカテゴリー,カテゴリーとした.これらの分析は筆者ら全員でデータ収集と平行して進めた.そして,すべての分析終了時に対象者全員に電話にてメンバーチェッキングを実施した.本研究における「作業」は日本作業療法協会作業療法の定義を用いた.尚,本研究は大学の研究倫理審査委員会での審査を受け承認を得た.
【 結果 】
 研究対象者は総合病院や大学病院で勤務しているOTで,平均経験年数は15年,面接時間は平均61.4分であった.実施された介入内容は,基本動作練習やADL練習,復職や地域の役割に関連した動作練習,趣味などが挙がった.分析結果より4つのカテゴリーと9つのサブカテゴリー,28のコードが出現した.そのなかで【作業療法士が患者に変化を起こす】のカテゴリーでは,《患者が自身の動作や能力に気づく》《患者が動機付けられる》《患者が自分でできることを見つけていく》の3つのサブカテゴリーで構成された.また【作業療法士や患者が未来像を描く】のカテゴリーでは《患者が未来像を描く》《作業療法士が患者の未来像を描く》の2つのサブカテゴリーで構成された.
【 考察 】
 本研究より実施された介入は,ADLや仕事など患者にとってできるようになりたいことやできるようになる必要がある動作の一部が行われていた.これより急性期OTは早期より患者の生活に関心を持ち関わり,作業に焦点を当てた実践を行う上で障壁とされている環境の特性を理解し患者が病前の姿を取り戻せるよう作業を微調整していた.
 脳卒中急性期は,常に再発や病状の悪化に留意しながら介入を進めることが求められている.そのなかで早期よりADLや役割の一部を実践することは,患者が《自身の動作や能力に気づき》《動機付けられ》《自分でできることを見つけていく》ことで【作業療法士は患者に変化を起こし】患者が自らを健康にしていく力を与えていた可能性があることがわかった.さらに,これらの作業を通して【作業療法士や患者が未来像を描く】ことで,患者だけでなくOT自身も患者の今後の生活における具体的な見通しを描く可能性があることが示唆された.これは生活を描きにくい時期だからこそ現れる作業の使い方であったと考える.本研究のデータを臨床へ応用するために今後は多くの急性期OTよりどのように作業を用い具体的な戦略を取っているか調査研究が必要である.