第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-5-12] ポスター:脳血管疾患等 5脳卒中急性期における上肢集中練習の効果

武藤 里奈1 (1医療法人渓仁会手稲渓仁会病院リハビリテーション部)

【背景と目的】脳卒中発症後急性期での上肢麻痺に対する機能訓練については諸説ある.海外では高強度のCI療法は長期的な予後に悪影響を及ぼすという報告(A.W.Dromerick/2009)がある一方で,1日2時間前後のCI療法であれば,急性期においても通常訓練より有益である可能性も示されている(R.Nijland/2011).本邦でも急性期での上肢集中練習は注目されており,当院でも発症直後から積極的な介入を行っているが,治療内容はOT個々人の采配に委ねられていた.2021年9月よりFMAを導入し,CI療法を基盤とした上肢集中練習の理論を共有した上で,上肢集中練習を実施した.当院では対象者への介入時間は1日40~60分である.そこで今回,急性期での短時間上肢集中練習の効果を,機能とADLの視点から検討することを目的とした.
【方法】当院に片側損傷の脳卒中で入院し,離床が許可された時点で1)手関節伸展20度以上,MP/IP関節伸展10度以上の自動運動が可能2)BRSⅥ未満3)感覚脱失ではない4)上肢に疼痛や外傷による運動機能障害がない5)認知症や高次脳機能障害による指示理解困難がない患者を対象とした.上記基準を満たし従来のOTを実施した2018年11月~2021年8月までの群を従来群28例,2021年9月~2021年12月末に最終評価を終えた群を集中練習群27例とした.抽出項目は患者属性(年齢,性別,利き手,疾患名,損傷半球),身体機能評価(BRS,STEF,FIM),治療内容(治療期間,介入単位数,電気刺激療法の有無)とした.統計処理は2群間においてχ2検定を用いて患者属性と治療内容に偏りがないことを確認した.2群間比較では,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,BRS,STEF,FIMの変化を有意水準0.05とし検討した.集中練習群では,Spearmanの相関係数を用い,STEF及びFIMの変化と患者属性や治療内容の相関について検討した.集中練習群のうちFMAを初回最終で評価可能だった13例において,先行研究のMCID10点(Fatima de N.A.P.Shelton/2001)を参考に治療効果の妥当性を検討した.統計解析にはSPSS,ver.21を使用した.本研究は当院倫理委員会の承認のもと実施した.
【結果】従来群/集中練習群において,STEFの変化(9.42±14.14/22.59±14.01,P=0.001),FIM利得の食事(0.82±1.36/1.63±1.74,P=0.045)とトイレ動作(1.93±1.88/3.22±2.28,P=0.039)にて今回の集中練習群においては有意差を認めた.集中練習群では,STEFの変化と治療期間に有意な相関(r=0.405)を認めた. FIM利得と患者属性,治療内容との有意な相関は認めなかった.FMAは介入前/後で有意な改善(55.23±9.64/62.76±4.13,p=0.005)を認めた.FMAの変化は平均7.54
±10.06点だった.
【考察】FMAの変化は先行研究のMCID10点(Fatima de N.A.P.Shelton/2001)に満たなかったが,STEFおよびFIM利得が有意に改善していたことより,麻痺手の複合運動能力及び上肢を用いるADLが有意に改善する可能性が示唆された.改善がみられたトイレ動作は両手使用を必要とすることが多いため,麻痺手を補助手または実用手としてADLで使用できていたと考えられる.急性期での上肢機能は自然回復の影響も大きいが,OT介入時に積極的に集中練習を行うことで,対象者に「使ってみよう」と意欲が芽生え,病棟生活においても使用頻度が向上した可能性がある.急性期からADL遂行を見据えた上肢機能改善を図ることと,対象者にも上肢使用感を実感していただくことが重要である.