[PA-5-3] ポスター:脳血管疾患等 5脳血管障害後の入院患者におけるトイレ動作自立にはどのような高次脳機能が関連するのか?~多重代入とベイズ統計を用いた横断研究~
【はじめに】
トイレ動作の障害は,脳血管障害後の入院患者において最も多く経験する障害の一つである.そして,トイレ動作の障害は抑うつやQuality of Lifeの低下,介護負担の増大といった重大な問題へと繋がる.脳血管障害後の入院患者に対するトイレ動作自立を予測するには身体機能だけでは説明が不十分であると示唆されている.そのため,身体機能以外にも高次脳機能が重要であると考えられるが,高次脳機能とトイレ動作との関連については報告されていない.そのため,リハビリテーション開始時のトイレ動作自立に対しては不十分な作業療法戦略によって介入が行われている可能性がある.よって,本研究では,高次脳機能とトイレ動作の関連について調査することを目的とした.
【方法】2017年11月~2020年10月の間にA病院の回復期リハビリテーション病棟に入院した脳血管障害後の入院患者から,入院後3か月時点の51名(平均年齢は72.1±11.0歳,女性22名)を解析対象とした.データは入院後3か月時点での評価結果を抽出した.目的変数は,Functional Independence Measure(FIM)におけるトイレ動作の項目とし,6点以上を自立(あり=1),5点以下を見守りまたは介助(なし=0)の二値とした.共変量は先行研究に基づき年齢,性別,Berg balance scale(BBS)得点とした.説明変数は,4つの高次脳機能検査(forward digit span,
visual cancelation task(VCT)の正答率,symbol digit modalities test得点,Kohs block design testのIQ)とした.解析では,本研究データは欠損値を有していたため,多重代入により欠損値を補完し,少ないサンプル数でも安定した解析が可能なベイズ統計を用いてロジスティック回帰分析を実施した.モデルはBayes Factor (BF)により説明変数の組み合わせの中で最良のモデルを選択した.結果は95%ベイズ信頼区間(95%CI)が1を含んでいない場合に有意と解釈した.統計解析ソフトにはR(miceおよびbrms,rstanパッケージ)を用いた.
【倫理的配慮】
本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(2021C0004).また,本研究では,A病院からの許可を得た上で,当病院の連結不可能な2次的データを用いたため,対象者からの同意は免除された.
【結果】
共変量に加えてVCT正答率を説明変数としたモデルがBF=232.4(強く推奨)となり,最良モデルとして選択された.最良モデルでは,VCT正答率がトイレ動作に有意に関連していた(Odds ratio1.16[95%CI 1.02, 1.49]).また共変量としてのBBSも有意に関連していた(Odds ratio 1.23[95%CI 1.17, 1.46]).
【考察】
VCTは主に選択性注意を反映しているとされ,本研究結果からは脳血管障害後の入院患者におけるトイレ動作自立には,選択性注意が影響している可能性が示された.トイレ動作には,排泄後や失禁時の処理,洗浄レバーの操作などの工程が含まれる.入院後3か月の間にトイレの一連のプロセスを学習し自動化していたと考えられる本研究対象者でも,排泄の量や失禁の有無などによって状況が変化するために,選択性注意が必要となる場合があると考えられる.よって,脳血管障害後の入院患者の選択性注意はトイレ動作自立の予測に役立つ可能性が期待できる.
トイレ動作の障害は,脳血管障害後の入院患者において最も多く経験する障害の一つである.そして,トイレ動作の障害は抑うつやQuality of Lifeの低下,介護負担の増大といった重大な問題へと繋がる.脳血管障害後の入院患者に対するトイレ動作自立を予測するには身体機能だけでは説明が不十分であると示唆されている.そのため,身体機能以外にも高次脳機能が重要であると考えられるが,高次脳機能とトイレ動作との関連については報告されていない.そのため,リハビリテーション開始時のトイレ動作自立に対しては不十分な作業療法戦略によって介入が行われている可能性がある.よって,本研究では,高次脳機能とトイレ動作の関連について調査することを目的とした.
【方法】2017年11月~2020年10月の間にA病院の回復期リハビリテーション病棟に入院した脳血管障害後の入院患者から,入院後3か月時点の51名(平均年齢は72.1±11.0歳,女性22名)を解析対象とした.データは入院後3か月時点での評価結果を抽出した.目的変数は,Functional Independence Measure(FIM)におけるトイレ動作の項目とし,6点以上を自立(あり=1),5点以下を見守りまたは介助(なし=0)の二値とした.共変量は先行研究に基づき年齢,性別,Berg balance scale(BBS)得点とした.説明変数は,4つの高次脳機能検査(forward digit span,
visual cancelation task(VCT)の正答率,symbol digit modalities test得点,Kohs block design testのIQ)とした.解析では,本研究データは欠損値を有していたため,多重代入により欠損値を補完し,少ないサンプル数でも安定した解析が可能なベイズ統計を用いてロジスティック回帰分析を実施した.モデルはBayes Factor (BF)により説明変数の組み合わせの中で最良のモデルを選択した.結果は95%ベイズ信頼区間(95%CI)が1を含んでいない場合に有意と解釈した.統計解析ソフトにはR(miceおよびbrms,rstanパッケージ)を用いた.
【倫理的配慮】
本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(2021C0004).また,本研究では,A病院からの許可を得た上で,当病院の連結不可能な2次的データを用いたため,対象者からの同意は免除された.
【結果】
共変量に加えてVCT正答率を説明変数としたモデルがBF=232.4(強く推奨)となり,最良モデルとして選択された.最良モデルでは,VCT正答率がトイレ動作に有意に関連していた(Odds ratio1.16[95%CI 1.02, 1.49]).また共変量としてのBBSも有意に関連していた(Odds ratio 1.23[95%CI 1.17, 1.46]).
【考察】
VCTは主に選択性注意を反映しているとされ,本研究結果からは脳血管障害後の入院患者におけるトイレ動作自立には,選択性注意が影響している可能性が示された.トイレ動作には,排泄後や失禁時の処理,洗浄レバーの操作などの工程が含まれる.入院後3か月の間にトイレの一連のプロセスを学習し自動化していたと考えられる本研究対象者でも,排泄の量や失禁の有無などによって状況が変化するために,選択性注意が必要となる場合があると考えられる.よって,脳血管障害後の入院患者の選択性注意はトイレ動作自立の予測に役立つ可能性が期待できる.