[PA-5-6] ポスター:脳血管疾患等 5重度記憶障害を呈した患者家族の介護負担感に着目し外来リハビリテーションを実施した一例
【はじめに】高次脳機能障害を呈した場合,その家族の介護負担は大きく(田辺.2007),介護者を精神的にサポートし介護負担を軽減することは,在宅介護を円滑に継続するためにきわめて重要とされている(荒井.2002).今回,重度記憶障害を呈する患者とその家族に対し外来リハビリテーション(以下,外来リハ)を行う機会を得た.本例の記憶障害への対処ができない妻に対して,病態理解の促しと対処法の提示を行い,介護負担感の軽減を認めたため以下に報告する.なお,本報告は対象者および家族より同意を得ている.
【症例紹介】50歳代男性,妻と同居.前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対し開頭クリッピング術,VPシャント術を施行した.治療経過中に両側視床下部と両側尾状核の梗塞を発症した.当院急性期,回復期でのリハビリテーションを行い第253病日に自宅退院した.移動は独歩自立し,ADLは全てに促しや軽介助が必要であった.第358病日から,当院で外来リハを週1回の頻度で実施した.外来リハ開始時のMMSEは21/30点,SP-Aは有関係3-5-8,無関係0-0-0であった.日本版Zarit介護負担尺度(以下,J-ZBI)は50/88点であり,「患者さんの行動に対し困ることがありますか」の項目で訴えが多かった.具体的には,「家から出ていくのをどうやって止めれば良いか分からない」,「間違って私の歯ブラシを使ってしまう」といった記憶障害由来のエピソードや,「主人に苛立ってあたってしまう」といった不満を聴取した.
【介入指針】本例は重度記憶障害により,仕事を辞めたことを忘れて出て行く,自分の歯ブラシが覚えられない等の症状を認めていた.ストレス理論(新名.1991)から,妻は本例の重度記憶障害に対する病態理解ができておらず,ストレス反応として,妻に苛立ちが生じていると考えた.妻のストレス反応を軽減させるために,まずは病態の理解と対処法の提示が必要と考えた.外来リハの中で本人を交えた家族指導を行ったが,介入頻度が少なく有効性が低いと判断し,在宅でも見返せるように交換ノートを用いた介入を試みた.
【介入経過】妻が生活で困ったことや苛立ちを覚えた場面を記録したノートをもとに,翌週の外来リハで対処法や助言を記載し妻に指導した.介入前期(外来リハ開始〜148日)は,本例の症状や予後に関する質問を多く認めたため,記憶障害に対する説明を多く行った.介入後期(外来リハ開始148日〜332日)には本例のポジティブなエピソードの記載も増加し,正のフィードバックを行いながら,「伝える時は1つずつにする」「歯ブラシは本人の分のみ置いておく」など,エピソードに応じて対処法や環境調整の指導を継続した.「着替えるのは1枚ずつ手渡せばできました,2つだったらまだダメでした.」と妻自身で対処できる場面も増え,ノートには病態に対する確認事項の記載が増加した.
【結果】第681病日(外来リハ開始から324日)のMMSEは21/30点,SP-Aは有関係6-4-5・無関係0-0-1であった.ADLは促しのみで成立する場面が増加し,介助量の軽減を認めた.J-ZBIは36/88点で介護負担感は軽減した.妻は「関わり方が少しずつわかってきたのかも.また見返して思い出します.」「主人じゃなくて私が変わらないといけない.」と発言し,内省にも変化を認めた.
【考察】Lazarust(1984)はストレス対処をコーピングと定義している.今回,記憶障害に対する説明や対処法の指導により,妻のコーピングを促したことで,ストレス反応および介護負担感の軽減につながったと考えられた.また,ストレス反応の軽減により,適切な介助が行えるようになったことで,介助量の軽減にもつながったと考えられた.
【症例紹介】50歳代男性,妻と同居.前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対し開頭クリッピング術,VPシャント術を施行した.治療経過中に両側視床下部と両側尾状核の梗塞を発症した.当院急性期,回復期でのリハビリテーションを行い第253病日に自宅退院した.移動は独歩自立し,ADLは全てに促しや軽介助が必要であった.第358病日から,当院で外来リハを週1回の頻度で実施した.外来リハ開始時のMMSEは21/30点,SP-Aは有関係3-5-8,無関係0-0-0であった.日本版Zarit介護負担尺度(以下,J-ZBI)は50/88点であり,「患者さんの行動に対し困ることがありますか」の項目で訴えが多かった.具体的には,「家から出ていくのをどうやって止めれば良いか分からない」,「間違って私の歯ブラシを使ってしまう」といった記憶障害由来のエピソードや,「主人に苛立ってあたってしまう」といった不満を聴取した.
【介入指針】本例は重度記憶障害により,仕事を辞めたことを忘れて出て行く,自分の歯ブラシが覚えられない等の症状を認めていた.ストレス理論(新名.1991)から,妻は本例の重度記憶障害に対する病態理解ができておらず,ストレス反応として,妻に苛立ちが生じていると考えた.妻のストレス反応を軽減させるために,まずは病態の理解と対処法の提示が必要と考えた.外来リハの中で本人を交えた家族指導を行ったが,介入頻度が少なく有効性が低いと判断し,在宅でも見返せるように交換ノートを用いた介入を試みた.
【介入経過】妻が生活で困ったことや苛立ちを覚えた場面を記録したノートをもとに,翌週の外来リハで対処法や助言を記載し妻に指導した.介入前期(外来リハ開始〜148日)は,本例の症状や予後に関する質問を多く認めたため,記憶障害に対する説明を多く行った.介入後期(外来リハ開始148日〜332日)には本例のポジティブなエピソードの記載も増加し,正のフィードバックを行いながら,「伝える時は1つずつにする」「歯ブラシは本人の分のみ置いておく」など,エピソードに応じて対処法や環境調整の指導を継続した.「着替えるのは1枚ずつ手渡せばできました,2つだったらまだダメでした.」と妻自身で対処できる場面も増え,ノートには病態に対する確認事項の記載が増加した.
【結果】第681病日(外来リハ開始から324日)のMMSEは21/30点,SP-Aは有関係6-4-5・無関係0-0-1であった.ADLは促しのみで成立する場面が増加し,介助量の軽減を認めた.J-ZBIは36/88点で介護負担感は軽減した.妻は「関わり方が少しずつわかってきたのかも.また見返して思い出します.」「主人じゃなくて私が変わらないといけない.」と発言し,内省にも変化を認めた.
【考察】Lazarust(1984)はストレス対処をコーピングと定義している.今回,記憶障害に対する説明や対処法の指導により,妻のコーピングを促したことで,ストレス反応および介護負担感の軽減につながったと考えられた.また,ストレス反応の軽減により,適切な介助が行えるようになったことで,介助量の軽減にもつながったと考えられた.