第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-5-8] ポスター:脳血管疾患等 5交代性外斜視と両側MLF症候群により複視を呈した症例への介入

狩野 英明1中森 崇1鈴木 真由1西口 江美1松生 睦1 (1畿内会 岡波総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】交代性外斜視と両側内側縦束(MLF)症候群を呈したwall-eyed bilateral internuclear ophthalmoplegia(WEBINO症候群)により,両眼の眼球運動障害を呈した症例を担当した.WEBINO症候群の症状は,複視が報告(角谷ら,2013)されており症例でも確認された.片眼の眼球運動障害による複視に対してのリハビリテーション介入は,患側眼に眼帯を装着して代償的に複視を軽減させる方法や,健側眼に眼帯を装着して患側眼を積極的に使用し回復を促す方法(新井ら,2015)などがあるが,急性期における両眼の眼球運動障害に対するリハビリテーション介入の報告は少ない.今回,両眼の眼球運動障害から複視を呈し離床困難だったが,探索的に眼帯を使用した結果,ADLが自立し自宅退院に繋がった症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮/COI】本報告は,症例から書面にて同意を得ている.COI関係にある企業等はない.
【症例紹介】80歳代男性,右利き.病前は独居で生活しておりADLは自立していた.X年Y月Z-3日にふらつきが出現し,Z-2日に複視が出現し様子をみていたがZ日に嘔気が強くなり受診した.MRIの拡散強調画像で橋被蓋部に高信号を認め脳幹梗塞と診断された.
【作業療法評価(Z+1日)】意識清明,血圧:154/78mmHg,脈拍:69回/分,筋力:MMT四肢5レベル,失調:右鼻指鼻試験・測定障害あり,踵膝試験正常,感覚:表在・深部感覚正常,神経心理学的検査:HDS-R30/30点.眼球運動障害は,両側の側方視において,内転制限と外転眼に眼振を認めた両側MLF症候群と,片眼を遮蔽すると,遮蔽側の外斜視が誘発される症状が両眼に見られ,WEBINO症候群を呈した.正面視は,左眼が外斜視を呈した.上下方視は不完全ながら可能.輻輳は不可能.複視は全方向で認め「開眼すると複視や嘔気が出現する」と発言し常時閉眼しており起居動作困難であった.また,Barthel Indexも0/100点であり1日中臥床して過ごしていた.
【作業療法経過・結果】Z+2∼3日:患側眼に眼帯を使用する方法を応用し,探索的にガーゼにて左眼を遮蔽すると複視が消失し開眼が可能となった.そのため,主治医に眼帯の装着を提案した.眼帯装着下は嘔気も消失し離床を開始できた.Z+7日∼:眼帯装着下でのADL訓練を実施.眼帯装着下での歩行は,ふらつきを認めた.また,眼帯にて遮蔽している側の外眼筋の委縮を予防するため昼食後に眼帯を左右入れ替えることを提案.それに加えて眼球運動訓練も実施.日中は,眼帯装着下で疲労の訴えなく読書やスマホを閲覧して過ごせるようになった.Z+14日∼:病棟内ADLは,眼帯を装着すれば左右どちらの眼を遮蔽していても自立にて可能となったため,自宅を想定した動作訓練を実施した.Z+17日:Barthel Indexは100/100点となった.複視や眼球運動障害は著明な改善が見られなかったが「自宅での動作も自信がついた」と発言され自宅退院となった.
【考察】本症例は両眼の眼球運動障害による複視を呈したが,眼帯の装着により,単眼視となり複視が消失し離床開始やADL改善につながった.また,眼帯による単眼視でのADL遂行による疲労の増強や転倒などの有害事象を認めなかった.以上から眼帯装着は,両眼の眼球運動障害による複視に,一時的に複視を軽減させる手段として使用可能と考える.今後は,回復の経過や活動内容を評価し単眼視での日常生活の継続を判断していく必要がある.