第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

Sat. Sep 17, 2022 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-6-11] ポスター:脳血管疾患等 6統合失調症を持つ癒着性くも膜下炎患者に対し姿勢制御の観点から治療した経験

今井 光1伊藤 隼人1中里 瑠美子1降矢 芳子1 (1東京女子医科大学附属足立医療センターリハビリテーション部)

【はじめに】
 今回,統合失調症を持つ癒着性くも膜下炎の症例に,作業所への通所再開を目標に姿勢制御の観点から問題を抽出し治療介入を行ったので報告する.発表に際し,症例より口頭にて同意を得た.
【症例紹介】
 症例は癒着性くも膜下炎と診断された30代の女性.併存疾患に統合失調症,精神発達遅滞を持つ.今回,四肢麻痺(MMT上肢3 下肢0)が出現,手術目的に当院へ入院した.病前は,更生施設に入所し,ADLは自立.作業所に通所し軽作業に従事していた.リハ開始時,両下肢痙性麻痺と感覚脱失,左上肢に重度の感覚障害を呈していた.21病日に癒着剥離術と後方固定術を施行し,上下肢の運動,感覚機能に著明な改善を認めた.28病日に連続300mの歩行が可能となり,施設へ退院に向けて改めて評価を行った.
【作業療法評価】
症例の主訴は「施設に戻って作業所に行きたいけど転ぶのが不安.」と述べたが,具体的な内容を尋ねると,「わからない.」と答え,問題解決能力の乏しさが伺えた.そこで,病前生活における1日のスケジュールを聴取し,紙面に書き出した.その上で,身体能力を姿勢制御の観点から評価し,課題となる生活行為を抽出した.症例は体幹筋群の弱化により,四肢近位部を屈曲・内転させて固定することで姿勢の安定を保証していた.さらに,骨盤の可動性低下が四肢の固定性への依存をより強め,四肢の自由度を犠牲としていた.実動作では10cm台の昇降で動揺を呈したが,動作の際に腹部と骨盤を介助すると,上下肢の固定性が緩み,安心して動作を行われた.このことから,症例の転倒不安は体幹の不安定性を四肢の固定性によって補う姿勢制御の変質が要因と考えられた.そして,施設への退院と作業所への通所再開を果たすための生活行為の課題を,四肢の自由度や抗重力伸展活動が求められる「配膳」「洗濯物干し」「車の乗降」「階段昇降」と抽出し,本人と共有した.また,介入方法を選定する手がかりとして,立ち上がり動作の一連の流れを分割した写真を並び替える課題で評価した.すると,順番通りに並べられず,視覚的に動作を理解することは困難と推測された.そのため,模倣による動作練習の反復ではなく,徒手により重心の移動や筋収縮のタイミング,運動の方向を直接的に介助し,固有感覚情報を運動学習の一助となるように介入することとした.
【介入と結果】
 まず,背臥位から骨盤-下肢,胸郭-肩甲帯の分離した運動を体幹部の安定を徒手で保証した中で促した.次に,立ち上がり動作や座位から長座位へと移る課題から,体幹の安定性の下で四肢を動かすといった協調的な運動を促した.その上で,昇段動作などの実動作を重心の移動や筋活動のタイミングを介助して練習した.また,介入前後の違いや内観を言語化するように依頼することや,課題成功時には正のフィードバックを行い,問題解決に向けた本人の参加を促し,達成感を獲得できるよう配慮した.上記の介入は29病日から開始.39病日にOT付き添いで外出訓練を実施したところ,傘を差しての歩行や階段昇降も可能となった.43病日に施設への退院となり,翌日から作業所への通所を再開できたとの報告を受けた.
【考察】
 本症例は癒着性くも膜下炎による姿勢制御の変質に加え,統合失調症に伴う動作理解の障害 (高橋2008)や問題解決能力の低下により,効率的な姿勢制御による運動学習が阻害される傾向にあった.そのため,問題の抽出と共有による意思決定の支援(Wolpert 2012)や固有感覚情報に基づく動作練習により内在的フィードバック(Subramanian 2010)を活用した運動学習を提供した.その結果,病前の生活習慣を獲得するに至ったと考えられた.