第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-6-12] ポスター:脳血管疾患等 6視覚性運動失調(ataxie optique)を呈した事例に対し,課題指向型練習を中心とした介入により上肢機能の改善につながった一例

井上 信悟1増田 昌行1渡邉 浩司1 (1掛川市袋井市病院企業団立 中東遠総合医療センター)

【はじめに】視覚性運動失調とは,対象に対し正確に手を伸ばす到達動作の障害であり,周辺視野にあるものに対してだけ起こる場合をataxie optiqueと呼ぶ.本事例はataxie optiqueにより,左手で茶碗がうまく把持できないなどの生活面への影響を認めた.そこで,本事例に対して, CI療法を基盤とした介入(課題指向型練習,Transfer package)を実施し,上肢機能の改善と生活場面における実用性の向上に至った.今回の介入経過について考察を加えて報告する.なお,本報告に際し本人には書面にて説明を行い,同意を得た.
【事例紹介】50歳代,女性,右利き,母と2人暮らし.介護士として介護施設に勤務.仕事中に左手でシャワーがうまくつかめない,歩行時の左足の違和感を主訴に来院し,右頭頂葉の皮質下出血の診断で入院となった.第2病日に理学療法,作業療法,言語聴覚療法が開始となった.
【初期評価 第2~8病日】神経学的所見は,明らかな運動麻痺はなく,表在感覚は正常であった.しかし,母指探し試験はⅡ度障害で,位置覚の低下を認めた.神経心理学的所見は,ataxie optique,注意障害を認めた.ataxie optiqueはすき間通し課題にて評価し,左手‐周辺視野の条件では円板のすき間に左手をうまく差し込めない様子が観察された.上肢機能評価は,STEF右98点/左71点,MAL-14は,AOU 4.2,QOM 3.6であり,使用頻度は保てているが実用性の低下を感じていることが分かった.ADLはFIM105点で,見守りがあれば病棟ADLは行えるものの動作時に左手を壁や扉にぶつけてしまうという訴えが聞かれた.本人と相談の結果,短期目標(2週間)を,「病前と同等に左手でお椀を把持できるようになる」と「動作時に左手をぶつけることがなくなる」に設定した.
【経過 第9~19病日】CI療法を基盤とした介入(40分/回)を計8回実施した.課題指向型練習は,Shaping課題として周辺視野下でのコーン移送,積み木移送,コイン移送を実施した.難易度は,注視位置からの距離と物品の大きさで調整を行った.Task practiceとしてお椀操作,ボタン操作,紐結び等を実施した.Transfer packageとして生活での使用場面の確認と使用状況の確認を実施した.また,自主練習(30分/回)を計10回実施した.
【最終評価 第20~21病日】位置覚は母指探し試験で障害なし.ataxie optiqueはすき間通し課題で,初期評価時と比較して改善を認めた.上肢機能はSTEF右100点/左93点,MAL-14は,AOU4.25 QOM 4.0であり,上肢機能の改善と生活場面における実用性の向上を認めた.ADLはFIM124点で,病棟ADLは自立し,動作時に左手を壁や扉にぶつけてしまうことはなくなった.また,左手でお椀を把持して食事摂取も可能となった.第22病日に復職と自動車運転の再開を目的に,回復期病院へ転院となった.
【考察】本報告は急性期の事例であり自然回復の影響を考慮すべきで,事例報告の結果であるため介入方法の効果を一般化することはできない.ただ,母指探し試験,STEF,MAL,すき間通し課題で改善を認め上肢機能の改善と生活場面における実用性の向上に至った.その要因として,CI療法を基盤とした練習を実施し,日常生活で患手の積極的な使用を促したことが上肢機能の改善に寄与したと考える.ataxie optiqueに対する介入戦略について報告は少ないが,本事例の経験から,CI療法を基盤とした介入によって患手の使用を促し,生活場面への転移を目指すことが有用ではないかと考えた.