[PA-6-5] ポスター:脳血管疾患等 6運動意図により生じる余剰幻肢の定量的および経時的評価の試み~ミラーセラピーによる副作用の報告~
【はじめに】余剰幻肢(Supernumerary Phantom limb以下SPL)とは,麻痺肢以外にもう一本以上の肢があるように感じる感覚体験であり,中にはSPLを意図的に動かす事のできる症例も存在する(Asaidら2009).このような症例は,運動イメージと実際の運動との結果の不一致が矯正できず不快感が生じ,作業療法介入の妨げとなる.SPLの評価は,患者の訴えを記述することが多く(Antonielloら2010),定量的および経時的に評価した報告はこれまでにない.今回,先行研究の記述式評価を参考にリッカート尺度の質問紙を作成し,定量的・経時的なSPLの評価を試みたところ,その病態と介入方法の選定について若干の知見を得たのでここに報告する.なお,ヘルシンキ宣言に基づき書面をもって同意を得た.
【症例紹介】50代男性,右利き.X日,仕事中に左上下肢の運動麻痺を自覚し救急搬送される.頭部CTにて右頭頂葉皮質〜放線冠,視床,内包に広がる出血を認め開頭血腫除去術を施行.第21病日目にリハビリテーション目的で当院へ転院した.[作業療法評価(第40病日)]意識清明,運動麻痺は Brunnstromstages 上肢I,手指I,下肢Iであった.感覚機能は,左上下肢ともに重度鈍麻~脱失であった.また,安静時・動作時共に左肩・手指に Numerical Rating Scale 8/10 の強い疼痛を認めた.深部腱反射は左側で亢進し,病的反射は認めなかった.[神経心理学的所見(第 40病日)]Mini Mental State Examination25/30 点.SPL症候は他動運動では出現せず,運動意図が生じた場面(ミラーセラピー,袖をまくる)に認められた.身体失認,身体パラフレニアを疑う現象は認めなかった.
【作業療法経過】介入2か月目から運動麻痺改善を目的としたミラーセラピーを実施した.この期間中に幻肢の運動錯覚の増悪を認め,介入3か月目に反復促通訓練に切り替えた.介入4か月目にはBrunnstromstages上肢Ⅱ/手指Ⅱと運動麻痺の改善を認めた.SPL症状は経過と共に軽減したが,消失せず退院(介入6か月)まで残存した.
【方法】先行研究(Antonielloら2010)を参考に,麻痺手とSPLへの質問を7段階で回答する以下の質問紙(点数が高いほど強い)を作成した.⑴実際に見えるか,⑵痛みがあるか,⑶思い通りに動かせるか,⑷動く感覚があるか,⑸本物の手に感じるかの5項目とし,1ヵ月間隔で5ヵ月間評価を行った.
【結果】質問紙(麻痺側手/幻肢)は,⑴(7/3),⑵(6/1),⑶(1/3),⑷(1/3),⑸(7/1)であった.(1),(2),(5)は以降5ヵ月間,著明な点数の変動は無かった.(3)(1〜5か月の時系列順)は(1/3),(1/4),(1/2),(5/2),(2/2)であり,(4)は(1/3),(2/4),(3/5),(6/2),(3/4)であった.
【考察】質問紙の結果から本症例の特徴は,①ミラーセラピーを行った2ヵ月目に(3)(4)共に幻肢の項目が上昇していること,②運動麻痺が改善した4ヵ月目に(3)(4)の幻肢の項目が減少し,麻痺側手の項目が上昇したことである.①について,視覚誘導性の運動錯覚が,運動イメージの低下している麻痺側手ではなく,運動イメージの高いSPL側に生じ,ミラーセラピーは幻肢の運動イメージを増幅させたことが示唆される.②は運動麻痺の改善に伴い,①で生じていた運動イメージと実際の運動の不一致の矯正が図れていた可能性がある.これは, 不一致現象が修正されなければSPLが持続的に出現するという報告とも整合性がある(Staubら2006).以上のことからSPLを抑制させる要素は,随意運動の出現,幻肢に運動意図を生じさせない点であると考えられる.ミラーセラピーを用いた訓練では不一致現象を増悪させる可能性があり,SPLの運動意図および運動錯覚が促進し,麻痺側手の運動意図が抑制され,幻肢消失の遷延化および運動麻痺改善に悪影響を及ぼしたことが示唆された.
【症例紹介】50代男性,右利き.X日,仕事中に左上下肢の運動麻痺を自覚し救急搬送される.頭部CTにて右頭頂葉皮質〜放線冠,視床,内包に広がる出血を認め開頭血腫除去術を施行.第21病日目にリハビリテーション目的で当院へ転院した.[作業療法評価(第40病日)]意識清明,運動麻痺は Brunnstromstages 上肢I,手指I,下肢Iであった.感覚機能は,左上下肢ともに重度鈍麻~脱失であった.また,安静時・動作時共に左肩・手指に Numerical Rating Scale 8/10 の強い疼痛を認めた.深部腱反射は左側で亢進し,病的反射は認めなかった.[神経心理学的所見(第 40病日)]Mini Mental State Examination25/30 点.SPL症候は他動運動では出現せず,運動意図が生じた場面(ミラーセラピー,袖をまくる)に認められた.身体失認,身体パラフレニアを疑う現象は認めなかった.
【作業療法経過】介入2か月目から運動麻痺改善を目的としたミラーセラピーを実施した.この期間中に幻肢の運動錯覚の増悪を認め,介入3か月目に反復促通訓練に切り替えた.介入4か月目にはBrunnstromstages上肢Ⅱ/手指Ⅱと運動麻痺の改善を認めた.SPL症状は経過と共に軽減したが,消失せず退院(介入6か月)まで残存した.
【方法】先行研究(Antonielloら2010)を参考に,麻痺手とSPLへの質問を7段階で回答する以下の質問紙(点数が高いほど強い)を作成した.⑴実際に見えるか,⑵痛みがあるか,⑶思い通りに動かせるか,⑷動く感覚があるか,⑸本物の手に感じるかの5項目とし,1ヵ月間隔で5ヵ月間評価を行った.
【結果】質問紙(麻痺側手/幻肢)は,⑴(7/3),⑵(6/1),⑶(1/3),⑷(1/3),⑸(7/1)であった.(1),(2),(5)は以降5ヵ月間,著明な点数の変動は無かった.(3)(1〜5か月の時系列順)は(1/3),(1/4),(1/2),(5/2),(2/2)であり,(4)は(1/3),(2/4),(3/5),(6/2),(3/4)であった.
【考察】質問紙の結果から本症例の特徴は,①ミラーセラピーを行った2ヵ月目に(3)(4)共に幻肢の項目が上昇していること,②運動麻痺が改善した4ヵ月目に(3)(4)の幻肢の項目が減少し,麻痺側手の項目が上昇したことである.①について,視覚誘導性の運動錯覚が,運動イメージの低下している麻痺側手ではなく,運動イメージの高いSPL側に生じ,ミラーセラピーは幻肢の運動イメージを増幅させたことが示唆される.②は運動麻痺の改善に伴い,①で生じていた運動イメージと実際の運動の不一致の矯正が図れていた可能性がある.これは, 不一致現象が修正されなければSPLが持続的に出現するという報告とも整合性がある(Staubら2006).以上のことからSPLを抑制させる要素は,随意運動の出現,幻肢に運動意図を生じさせない点であると考えられる.ミラーセラピーを用いた訓練では不一致現象を増悪させる可能性があり,SPLの運動意図および運動錯覚が促進し,麻痺側手の運動意図が抑制され,幻肢消失の遷延化および運動麻痺改善に悪影響を及ぼしたことが示唆された.