第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

Sat. Sep 17, 2022 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-6-8] ポスター:脳血管疾患等 6脳卒中後の仕事復帰を目指すために,OBP2.0を基盤としたMTDLPを活用したことにより多職種連携が促進された実践報告

渋谷 玲二1寺岡 睦2 (1朝日大学病院リハビリテーション部,2吉備国際大学保健医療福祉学部作業療法学科)

【はじめに】生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)は,クライエントの生活行為向上を目指した実践プロセスを「見える化」したものである.加えて,作業に根ざした実践2.0(以下,OBP2.0)は,作業療法の専門性を発揮しながら多職種連携を同時に進める超メタ理論である.
 今回,重労働が想定される仕事復帰を希望している脳卒中後のクライエントに対し,生活行為の視点で多職種連携を促進することを目的とした介入を行った.MTDLPとOBP2.0を併用することにより,多職種連携しながら生活行為向上を支援する作業療法士の役割が他職種に周知される一助になることが期待される.
【事例紹介】A氏は60歳代の男性で,アパートの3階に一人暮らしである.職業は深夜帯の警備員であり,鉄道高架上で交通整備をしている.今回,右被殻出血を発症し当院入院となった.初期評価では,移乗時やトイレ動作の際に車いすブレーキ忘れ等の安全確認不足がみられ,立位を伴う動作に軽介助を要していた.第16病日目,地域包括ケア病棟移床時の再評価では,生活行為聞き取りシートを用いた合意目標の設定において,「仕事復帰と自動車運転の再開をするために,まずは病棟生活が一人でできること」を上げた(実行度1,満足度1).
 生活行為アセスメントの心身機能・構造の分析では,中等度左片麻痺により生活上の麻痺手使用はほとんどしていなかった.活動と参加の分析では,機能的自立度評価法(以下,FIM)は108点であり,病棟内のみ独歩自立していた.環境因子の分析では,アパート3階に一人暮らし,深夜帯で比較的重労働であることが上げられた.
 なお,本報告は,本人の同意と朝日大学医学倫理審査委員会(研究番号:2021-10-02)の承認を得ている.
【方法】本報告では,OBP2.0を理論的背景としたMTDLPを2か月間実施した.主要アウトカムは生活行為目標の実行度・満足度,作業機能障害の種類と評価(以下,CAOD),多職種連携で生じる信念対立を測定する評価法(以下,ABCR-14)とし,MTDLPシートに結果を反映し,介入前後で効果判定を行った.
【結果】CAODの合計点は79/112点であり,ニードと現状能力との間に差が生じており,病棟内のみの行動範囲では,行動や時間が自由にならないため作業機能障害を引き起こしていた.生活行為向上プランでは家事動作,階段昇降など,行動範囲拡大のための実施を行った.また,ABCR-14の合計点は17/98点であり,カンファレンス以外でも多職種とのコミュニケーションは比較的行われていた.そのため,生活行為向上のための看護師による介入や,生活状況の確認をすることで情報共有することができた.チームカンファレンスでは,仕事復帰後は軽作業から開始することや,自動車運転支援は,主治医の許可と運転免許センターでの適性検査が必要なことを伝達した.
 退院前評価での合意目標の達成度は,実行度7,満足度5であった.生活行為アセスメントの活動と参加の分析では,院内独歩とADLが完全自立しFIMは116点となった.
【考察】生活行為アセスメントの「活動と参加の分析」に作業機能障害の4種類の視点で記載したことにより,高い目標と行動範囲の制限のジレンマが生活行為を妨げている因子であるという分析をすることができた.これは,作業機能障害の視点で実際にMTDLPシートに記載する「見える化」によって,具体的に生活行為の状況を整理できたことによるものと考えられる.
 生活行為向上プランでは,信念対立の分析を各職種の役割と支援内容を応用的プログラム,社会適応的プログラムに反映したことで,OT介入時間以外にも生活行為向上につながる連携を促進することができたと考えられる.