第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-7-1] ポスター:脳血管疾患等 7脳卒中患者におけるドライビングシミュレーターでの注視行動と注意機能との関連~アイトラッカーを用いた視線計測をもとに~

佐々木 智宏1川野辺 穣1高橋 恵一2佐々木 正弘 (1地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センター機能訓練部,2秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座,3地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センターリハビリテーション科診療部)

【はじめに】当院では,入院し自動車運転の再開を希望する脳卒中患者に対し,神経心理学的検査やドライビングシミュレーター(以下,DS)を用いて自動車運転評価を実施している.しかし,神経心理学的検査とDSの評価結果との乖離等により,運転適性判定に苦慮する場合も少なくない.自動車運転に必要な情報の9割以上は視覚から得るという報告があり,刻々と変化する運転状況の把握やミラーでの後方確認のための注視行動評価は,危険予測や判断力を評価するには重要な指標になると考える.本研究は脳卒中患者のDS実施時における注視行動の特徴を明らかにすること,また高次脳機能評価,特に注意機能評価との関連について検討することを目的とする.
【方法】対象は,脳卒中群24名(男性14名,女性10名,平均年齢61±11歳),健常群20名(男性13名,女性7名,平均年齢49±6歳)である.脳卒中群は当センターに入院した脳卒中初発の患者で,退院後の運転再開を希望し主治医の指示のもとDSを用いて運転評価を行う者とした.方法は,アイトラッカー(製品名:Tobii Proグラス2)を装着し,DS(製品名:Hondaセーフティナビ)の危険場面走行時の視線計測を行った.今回検討した危険場面は,信号のある交差点での左折場面で,優先を無視して右折しようとする対向車や左側後方からバイクが通り過ぎるといった顕在的危険のある一場面である.視線計測は左画面,中央画面,右画面,左ミラー,ルームミラー,右ミラー,スピードメーターの7つの任意の範囲(Area of Interest;以下,AOI)を設定し,各AOIの注視合計時間(秒),注視平均時間(秒),注視回数(回)を抽出した. 神経心理学的検査としてMMSE-J, BIT通常検査, TMT日本版(以下,TMT-J),かな拾いテストの結果を調査した.統計解析として脳卒中群と健常群の2群で視線計測データの比較を行った.TMTは多くの神経心理学的検査の中で運転適性と関連性の高い検査の1つに位置づけられており, TMT-Jの総合判定による正常群と境界・異常群(境界,異常と判定された者)の2群で視線計測データの比較を行った.また,視線計測データと神経心理学的検査結果との関連性について検討するために相関分析を行った.
【結果】健常群と脳卒中群の視線計測データの比較では,左ミラーに対する注視合計時間,注視平均時間はいずれも脳卒中群で有意に短く,注視回数は脳卒中群で有意に少なかった.左ミラーに対する注視回数は,TMT-JPartA境界・異常群で有意に少なかった.また,ルームミラーに対する注視平均時間はTMT-JPartB境界・異常群で有意に短く,注視回数はTMT-JPartB境界・異常群で有意に少なかった.相関分析においてはルームミラーに対する各視線計測データはTMT-JPartBの所要時間と負の相関を認め,また注視平均時間はかな拾いテスト無意味文と正の相関を,注視回数はかな拾いテスト物語文と正の相関を認めた.
【考察】今回の危険場面において左ミラーやルームミラーの注視は,後方からさらにバイク等の接近がないかを確認するために必要であると考える.視線計測データの比較より,脳卒中群は後方確認のためのミラーの注視が十分に行えていない可能性があり,その背景には注意機能低下が影響していると考える.注視行動の評価は,危険予測が不十分であった箇所を可視化でき,危険を認知できているかを評価する一指標となると考える.
【倫理的配慮】本研究は当センター倫理委員会予備審査部会の承認(受付番号:20-13)を得ている.「ヘルシンキ宣言」に基づき,全ての研究対象者に研究の主旨に関する書面を用いて口頭にて十分に説明を行った後に,同意を得たうえで実施した.