第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-7-10] ポスター:脳血管疾患等 7Michonによる運転行動モデルを用いた自動車運転訓練

伊奈 杏都1上杉 治1昆 博之2 (1浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション部,2浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【はじめに】 自動車運転に対する評価の報告は多いが,訓練に対する報告は少ない.そこで,Michonによる運転行動モデルに基づいて自動車運転再開訓練を実施した.結果,運転再開に至ったため,考察を含め,発表をする.本発表に際し,書面にて同意を得ている.
【症例】 20歳代前半,女性.歯科衛生士.脳動静脈奇形の出血による左側頭葉血腫.右同名半盲(両眼で150°以上の視野は確保されていた).意識清明で麻痺はなし.ADLは自立.神経心理学検査はTMT-A 189秒, TMT-B 298秒 ,R-OCFT模写36/36点.失語症,注意機能,ワーキングメモリの低下を生じていた.精神的には不安定で,泣いている事もあった.入院当初は「早く復職したい」という希望が強く,復職の前段階に通勤手段となる運転があることは考えられない様子であった.
【経過】 入院時はラポール形成を図り,精神的ケア(傾聴する・安心できる居場所としての環境を整える),運転で必要となる注意機能やワーキングメモリなど,高次脳機能障害のベースアップを図った.また,運動量の向上や神経疲労の軽減のため,1日のスケジュールを構造化し,自主トレーニングや課題に利用しやすいようにした.症例は,空き時間の過ごし方を組み立て,有効に利用する場面もあった.退院が近づき,復職を想定した際の通勤手段を検討.「運転したら怖いこともわかるけど,1回運転のテストをやってみたい」と希望があった.SDSA,VFITを行った結果,注意機能の向上を認め,SDSAも良好で,右半盲に対しての気づきがあった.半盲があっても首振りによる代償ができれば運転できる可能性があることを伝え,外来リハビリにて訓練を継続していくことを共有.外来リハビリではVFIT,ドライブシミュレータ(以下,DS)や実車評価を行った.VFITでは,右側に見落としがあることは変わらなかったが,左側の刺激に対しては正しい反応ができていた.DSや実車評価にて首振りでの代償を反復した.実車評価後,本人と安全な運転経路を確認した.
【結果】 神経心理学検査では210病日後,TMT-A 95秒,TMT-B 124秒,R-OCFT模写36/36点,注意機能の向上を認めた.視野改善は認められなかったが,首振りで代償は可能になった.「時間は余裕を持つ,狭い道,暗い道,交通量の多い道は怖いことが分かった」と自身の運転について考えることができるようになった.同乗者がいる状態での段階的な運転再開に至った.
【考察】 Michonによる運転行動のモデルより,問題点を抽出した.Strategical Level(運転前,運転中の計画性やメタ認知)は,将来に対する不安や焦り,障害を受け入れられない気持ちから,自分の症状と運転機会や使用頻度を考えることができていない状況であった.Tactical Level(運転中の周囲との関係を維持する認知過程)では右同名半盲による人や障害物の探索,マルチタスクになった際の処理速度の遅延が課題であった.Operational Level(操作)では,視覚の問題がなければ大きな問題はないと予測した.そこで,本症例が,運転を再開するためには,Strategical Levelの心理面の安定を図り,メタ認知を高め,運転に対しての計画性を培うこと.Tactical Levelの首振りにより視覚代償をする際の,視覚性注意機能の向上やワーキングメモリの向上を促すことが運転再開を考えるときのポイントとなると考え,訓練を行った.そこで,運転中に首振りを行えるだけの余裕が生じ,代償動作の獲得に至ったと考える.自動車運転においてMichon運転行動モデルを利用することによって,訓練するべき問題が明確化すると考える.