[PA-7-7] ポスター:脳血管疾患等 7ドライビングシミュレーター中の視線の工学的解析と作業療法への活用
【はじめに】
東京都リハビリテーション病院(以下,当院)では,自動車運転再開を希望する脳損傷者に対して,神経心理学的検査やドライビングシミュレーター(以下,DS)を使用し運転の助言や診断書作成等,包括的な支援を行っている.2018年より視線計測器を導入し,DS中の注視箇所を記録し,作業療法士と対象者で視覚的に共有できるようになった.筆者らが渉猟した範囲における運転と視線に関する報告は,健常者を対象としたDS運転の研究報告に限られ,脳損傷者を対象とした報告はなかった.本研究では,健常者と脳損傷者において,DS中の左折時の注視行動の違いについて比較検討した.
【方法】
対象は倫理的説明に同意を得られた運転免許所有者で,健常者群18名(男性7名,女性11名,平均年齢28.4±6.8歳).脳損傷者群23名(男性21名,女性2名,平均年齢55.4歳±7.9歳).視線計測は三菱プレシジョンDS-7000に乗車し,トビーテクノロジー社製のアイトラッキングTobii proグラス2を使用した.解析はDSの危険予測プログラムの市街地コースのうち,ルームミラーに自動二輪車が映り込んでいるのに気付いて左折時に巻き込まない判断・操作を要する場面で,解析区間は左折のアナウンス後から曲がり終えハンドルが戻るまでとした.記録画面を縦3×横3の9区画に分け,記録した視線の縦横の偏向によって区画毎に注視回数と注視時間を測定し,健常者群と脳損傷者群で比較した.統計学的処理はSPSSを使用した.なお,注視箇所・回数・時間についてはマツダ株式会社技術研究所に解析を依頼した.本研究は,当院倫理委員会の承認を得た.
【結果】
結果についてShapiro-wilk検定を行い,注視回数18分布のうち5分布,注視時間18分布のうち4分布で有意水準p=0.005で正規性がみられた.健常者群と脳損傷者群の比較はMann-WhitneyのU検定で行い,注視回数・時間共に記録画面9区画のうち,ルームミラー付近である上段中央 にてp<0.05で健常者群よりも脳損傷者群で少ない傾向がみられた.注視回数・時間とも,その他の区画では有意差はみられなかった.上段中央区画での注視回数の平均は,健常者群1.7±1.9回,脳損傷者群0.7±1.回,注視時間の平均は,健常者群0.59±0.78秒,脳損傷者群0.23±0.63秒であった.
【考察】
今回,安全な運転再開に不可欠なルームミラーの注視において,脳損傷者群は健常者群と比較して回数は少なく時間は短い傾向があり,作業療法における脳損傷者の運転再開支援において,ルームミラーの十分な確認が訓練課題の一つとして工学的解析による裏付けをもって再確認された.また,工学的解析にて傾向が得られた事で,エビデンスに基づいて訓練導入時に説明を対象者に行うことが可能となり,訓練目的の共有をよりスムーズに図ることが可能となると考える.今後は他の左折場面や右折等他の危険予測箇所の解析も進め,今回有意差がみられなかったサイドミラー付近も含めて検討を行う.また,健常者群の平均年齢を脳損傷者群に近付けての検討も必要である.
東京都リハビリテーション病院(以下,当院)では,自動車運転再開を希望する脳損傷者に対して,神経心理学的検査やドライビングシミュレーター(以下,DS)を使用し運転の助言や診断書作成等,包括的な支援を行っている.2018年より視線計測器を導入し,DS中の注視箇所を記録し,作業療法士と対象者で視覚的に共有できるようになった.筆者らが渉猟した範囲における運転と視線に関する報告は,健常者を対象としたDS運転の研究報告に限られ,脳損傷者を対象とした報告はなかった.本研究では,健常者と脳損傷者において,DS中の左折時の注視行動の違いについて比較検討した.
【方法】
対象は倫理的説明に同意を得られた運転免許所有者で,健常者群18名(男性7名,女性11名,平均年齢28.4±6.8歳).脳損傷者群23名(男性21名,女性2名,平均年齢55.4歳±7.9歳).視線計測は三菱プレシジョンDS-7000に乗車し,トビーテクノロジー社製のアイトラッキングTobii proグラス2を使用した.解析はDSの危険予測プログラムの市街地コースのうち,ルームミラーに自動二輪車が映り込んでいるのに気付いて左折時に巻き込まない判断・操作を要する場面で,解析区間は左折のアナウンス後から曲がり終えハンドルが戻るまでとした.記録画面を縦3×横3の9区画に分け,記録した視線の縦横の偏向によって区画毎に注視回数と注視時間を測定し,健常者群と脳損傷者群で比較した.統計学的処理はSPSSを使用した.なお,注視箇所・回数・時間についてはマツダ株式会社技術研究所に解析を依頼した.本研究は,当院倫理委員会の承認を得た.
【結果】
結果についてShapiro-wilk検定を行い,注視回数18分布のうち5分布,注視時間18分布のうち4分布で有意水準p=0.005で正規性がみられた.健常者群と脳損傷者群の比較はMann-WhitneyのU検定で行い,注視回数・時間共に記録画面9区画のうち,ルームミラー付近である上段中央 にてp<0.05で健常者群よりも脳損傷者群で少ない傾向がみられた.注視回数・時間とも,その他の区画では有意差はみられなかった.上段中央区画での注視回数の平均は,健常者群1.7±1.9回,脳損傷者群0.7±1.回,注視時間の平均は,健常者群0.59±0.78秒,脳損傷者群0.23±0.63秒であった.
【考察】
今回,安全な運転再開に不可欠なルームミラーの注視において,脳損傷者群は健常者群と比較して回数は少なく時間は短い傾向があり,作業療法における脳損傷者の運転再開支援において,ルームミラーの十分な確認が訓練課題の一つとして工学的解析による裏付けをもって再確認された.また,工学的解析にて傾向が得られた事で,エビデンスに基づいて訓練導入時に説明を対象者に行うことが可能となり,訓練目的の共有をよりスムーズに図ることが可能となると考える.今後は他の左折場面や右折等他の危険予測箇所の解析も進め,今回有意差がみられなかったサイドミラー付近も含めて検討を行う.また,健常者群の平均年齢を脳損傷者群に近付けての検討も必要である.