[PA-7-8] ポスター:脳血管疾患等 7右大脳半球損傷患者の実車運転中の一時停止場面における右左折での視線動態~ unmatched case control study による運転可否間の比較~
はじめに 右半球損傷に起因する左半側空間無視症例Unirateral spatial neglect: USNの自動車運転の問題として,左方向への車線偏位(外川ら2017)などが指摘されているが,右半球損傷患者の実車運転中の視線動態と運転再開可否との関係を検証した報告は見当たらない.本研究では,右半球損傷患者の運転可否と実車運転時の一時停止場面における視線動態の関連を明らかにすることを目的とした.
方法 本研究はunmatched case control studyで実施した.対象者は2019年7月1日から2021年10月31日までに農協共済中伊豆リハビリテーションセンター回復期リハビリテーション病棟に入院して運転再開を希望し,運転免許センターで臨時適正検査を受けた対象者(93名)に行われた調査から,カルテの医療情報をもとに右半球損傷患者28名を抽出した(男性25名,女性3名 平均年齢57.1±11.8歳).本研究では,運転免許センターでの最終的な運転再開可否結果を基に,運転再開群(n=11)と不可群(n=17)の二群に分類し,属性情報,施設内コースでの実車運転中の一時停止場面における視線動態について二群間比較を実施した.属性情報については,年齢,性別,発症後日数,Brunnstrom recovery stage,神経心理学的検査(MMSE, TMT-part A, B, Symbol digit modality task: SDMT, Kohs block design test: KBDT)の結果を収集した.実車運転時の視線動態については,施設内コースの見通しの悪いT字交差点での一時停止場面における,左右の目視確認時の視線動態(右左折時の左確認回数・左確認範囲平均・左確認時間平均・右確認回数・右確認範囲平均・右確認時間平均)のデータを収集・抽出した.また,一時停止場面は,交差点の約30m手前から走行を開始する単一の運転課題を通じて記録された.視線動態の測定にはナックイメージテクノロジー社製のキャップ型アイマークレコーダー(EMR-9)を使用した.データの精度を担保するため,データ抽出については1つの映像から2名で個別にデータを抽出後,2名の結果を確認照合し,合意した結果を採用した.
統計的分析として,連続変数については正規性の検定(Shapiro-wilk test)を実施後,Mann-Whitney’s U-testを実施し,回数についてはカテゴリ変数としてFisher's exact testを用いて二群間比較を実施した(有意水準5%).統計ソフトはR 4.1.0を用いた.
なお,本研究は関係機関の倫理審査委員会(審査番号20180806-a,審査番号10697-21080)の承認を受け,対象者には口頭と書面で同意を得て実施した.
結果 属性情報の二群間比較の結果,KBDTのみ不可群より再開群が有意に大きかった(p=0.005).一時停止場面の視線動態の二群間比較の結果,右折時の左方向の確認回数において,再開群よりも不可群が有意に多かった(p=0.0007).さらに,右折時の左確認時間平均において,再開群よりも不可群が有意に時間が長かった(p=0.008).右折時のその他の項目,および左折時のいずれの項目においても有意差は認めなかった.
考察 左USN症例では課題負荷の増大に伴う損傷側同側(右側)への視線偏位が報告されているが,本研究では逆に右折時における左方向の確認回数や確認時間の増大が観察された.本研究対象は運転再開を考慮するレベルの軽度の右半球損傷患者であること,軽度USN例ではトップダウン型注意を優位に駆動させて左方向に注意を向ける症例の存在が指摘されていることから,本研究結果には一時停止交差点での右左折の課題難易度が低さが影響した可能性がある.以上のことから,実車評価の課題難易度設定を考慮する必要があることが示唆された.
方法 本研究はunmatched case control studyで実施した.対象者は2019年7月1日から2021年10月31日までに農協共済中伊豆リハビリテーションセンター回復期リハビリテーション病棟に入院して運転再開を希望し,運転免許センターで臨時適正検査を受けた対象者(93名)に行われた調査から,カルテの医療情報をもとに右半球損傷患者28名を抽出した(男性25名,女性3名 平均年齢57.1±11.8歳).本研究では,運転免許センターでの最終的な運転再開可否結果を基に,運転再開群(n=11)と不可群(n=17)の二群に分類し,属性情報,施設内コースでの実車運転中の一時停止場面における視線動態について二群間比較を実施した.属性情報については,年齢,性別,発症後日数,Brunnstrom recovery stage,神経心理学的検査(MMSE, TMT-part A, B, Symbol digit modality task: SDMT, Kohs block design test: KBDT)の結果を収集した.実車運転時の視線動態については,施設内コースの見通しの悪いT字交差点での一時停止場面における,左右の目視確認時の視線動態(右左折時の左確認回数・左確認範囲平均・左確認時間平均・右確認回数・右確認範囲平均・右確認時間平均)のデータを収集・抽出した.また,一時停止場面は,交差点の約30m手前から走行を開始する単一の運転課題を通じて記録された.視線動態の測定にはナックイメージテクノロジー社製のキャップ型アイマークレコーダー(EMR-9)を使用した.データの精度を担保するため,データ抽出については1つの映像から2名で個別にデータを抽出後,2名の結果を確認照合し,合意した結果を採用した.
統計的分析として,連続変数については正規性の検定(Shapiro-wilk test)を実施後,Mann-Whitney’s U-testを実施し,回数についてはカテゴリ変数としてFisher's exact testを用いて二群間比較を実施した(有意水準5%).統計ソフトはR 4.1.0を用いた.
なお,本研究は関係機関の倫理審査委員会(審査番号20180806-a,審査番号10697-21080)の承認を受け,対象者には口頭と書面で同意を得て実施した.
結果 属性情報の二群間比較の結果,KBDTのみ不可群より再開群が有意に大きかった(p=0.005).一時停止場面の視線動態の二群間比較の結果,右折時の左方向の確認回数において,再開群よりも不可群が有意に多かった(p=0.0007).さらに,右折時の左確認時間平均において,再開群よりも不可群が有意に時間が長かった(p=0.008).右折時のその他の項目,および左折時のいずれの項目においても有意差は認めなかった.
考察 左USN症例では課題負荷の増大に伴う損傷側同側(右側)への視線偏位が報告されているが,本研究では逆に右折時における左方向の確認回数や確認時間の増大が観察された.本研究対象は運転再開を考慮するレベルの軽度の右半球損傷患者であること,軽度USN例ではトップダウン型注意を優位に駆動させて左方向に注意を向ける症例の存在が指摘されていることから,本研究結果には一時停止交差点での右左折の課題難易度が低さが影響した可能性がある.以上のことから,実車評価の課題難易度設定を考慮する必要があることが示唆された.