[PA-8-7] ポスター:脳血管疾患等 8実動作訓練とリーチ訓練が食事動作自立に至った右片麻痺の一例
【緒言】
左内包後脚の梗塞により右片麻痺を呈し,右上肢での食事動作が困難となった患者に対し,実動作訓練とリーチ訓練を行ったことで右上肢での食事動作獲得に至ったため報告する.尚,本症例に際し趣旨を文章と口頭で説明し,症例より同意を得ている.
【症例紹介】
70歳代前半女性,右利き.現病歴はX日に自宅で右下肢のスリッパが引っ掛かる,右手で持った物が落ちるといった症状を自覚し当院を受診.左内包後脚のラクナ梗塞と診断され入院となった.病前ADLは自立していた.
【初期評価(X+5~11日)】
理学所見は,Br.stage(Rt):IV-V-III,MFT(Rt/Lt):75 /84,感覚:表在,深部覚共に正常.認知機能はMMSE:25/30点で指示理解が良好であり,リハビリに意欲的であった.FIMは,右上肢の日常生活への参加が乏しく,運動項目が54/91点であった. 食事は左上肢でスプーンを使用していた.右上肢でスプーンを使用すると,皿から口元へのリーチの際に,右肩甲帯が過度に挙上した.スプーンの把持は3指握りで可能であった.3口程度食べた段階で右側頸部から肩関節周囲にかけて疲労感を伴い,食事を続けることが困難であった.ニードとして「右手で食事をできるようになる」が挙げられた.
【作業療法と経過】
右側頸部から肩関節周囲にかけての疲労は,右上肢の屈筋共同運動パターンが優位となり,過度に肩甲帯挙上が繰り返されることで僧帽筋や肩甲挙筋の筋疲労が生じていることが要因と考えた.そのため,右肩甲帯と右肩関節の分離運動を促進するためにリーチ動作訓練を実施した.方法は,輪入れを使用し,代償動作が出現しない下方のリーチから上方のリーチへと段階付けを行った.また,自主訓練として,肩甲帯挙上を抑制した状態で右肩関節屈曲の反復運動をタオルワイピングで1日10回×3セット行うよう指導した.食事動作訓練では,皿から口元までのリーチ時に肩甲帯が挙上しないようセラピストが右肩甲帯の動きを介助し,徐々に介助量を減らした.X+15日に,肩甲帯挙上の代償動作が減少し,右上肢でスプーンを使用し最後まで食事をすることが可能となった.X+16日から箸操作訓練を開始した.箸操作時の観察では,右母指と環指で近位箸を固定することができず,重ね箸となっていた.これは,右母指環指の内転筋の筋力低下が原因と考え,箸と母指,環指の接触部にスポンジを追加し,改善を図った.また,母指と手指の内転の筋力低下に対する訓練として,ちぎり絵を追加した.X+25日,右上肢で普通箸の箸操作が可能となった.
【結果(X+25日)】
理学所見は,Br.stage(Rt):V-V-IV,MFT(Rt/Lt):88/91となった.日常生活で右上肢の使用頻度が増えて,FIMは運動項目75/91点と向上を認めた.食事動作は右手で箸を使用し自立した.右肩甲帯挙上の代償動作は消失し,食事動作後に疲労感を感じることはなくなった.
【考察】
「脳卒中ガイドライン 2015」では,上肢麻痺へのアプローチとして課題指向型訓練が推奨されている(グレードB).本症例では,右上肢の屈筋共同運動パターンにより右上肢での食事動作が困難となった患者に対し,課題指向型訓練としてリーチ動作訓練と実動作訓練を行った. リーチ動作訓練と実動作訓練は,右肩関節屈曲時に右肩甲帯挙上が生じないよう動きを抑制しながら繰り返し行った.その結果,右肩甲帯と右肩関節の分離運動が促進されて,右上肢での食事動作獲得に至ったと考えられる.また,本症例はリハビリに意欲的であり,指示理解も良好であったことで自主訓練を積極的に行えていたことも,早期食事動作の獲得に繋がったと考えられる.
左内包後脚の梗塞により右片麻痺を呈し,右上肢での食事動作が困難となった患者に対し,実動作訓練とリーチ訓練を行ったことで右上肢での食事動作獲得に至ったため報告する.尚,本症例に際し趣旨を文章と口頭で説明し,症例より同意を得ている.
【症例紹介】
70歳代前半女性,右利き.現病歴はX日に自宅で右下肢のスリッパが引っ掛かる,右手で持った物が落ちるといった症状を自覚し当院を受診.左内包後脚のラクナ梗塞と診断され入院となった.病前ADLは自立していた.
【初期評価(X+5~11日)】
理学所見は,Br.stage(Rt):IV-V-III,MFT(Rt/Lt):75 /84,感覚:表在,深部覚共に正常.認知機能はMMSE:25/30点で指示理解が良好であり,リハビリに意欲的であった.FIMは,右上肢の日常生活への参加が乏しく,運動項目が54/91点であった. 食事は左上肢でスプーンを使用していた.右上肢でスプーンを使用すると,皿から口元へのリーチの際に,右肩甲帯が過度に挙上した.スプーンの把持は3指握りで可能であった.3口程度食べた段階で右側頸部から肩関節周囲にかけて疲労感を伴い,食事を続けることが困難であった.ニードとして「右手で食事をできるようになる」が挙げられた.
【作業療法と経過】
右側頸部から肩関節周囲にかけての疲労は,右上肢の屈筋共同運動パターンが優位となり,過度に肩甲帯挙上が繰り返されることで僧帽筋や肩甲挙筋の筋疲労が生じていることが要因と考えた.そのため,右肩甲帯と右肩関節の分離運動を促進するためにリーチ動作訓練を実施した.方法は,輪入れを使用し,代償動作が出現しない下方のリーチから上方のリーチへと段階付けを行った.また,自主訓練として,肩甲帯挙上を抑制した状態で右肩関節屈曲の反復運動をタオルワイピングで1日10回×3セット行うよう指導した.食事動作訓練では,皿から口元までのリーチ時に肩甲帯が挙上しないようセラピストが右肩甲帯の動きを介助し,徐々に介助量を減らした.X+15日に,肩甲帯挙上の代償動作が減少し,右上肢でスプーンを使用し最後まで食事をすることが可能となった.X+16日から箸操作訓練を開始した.箸操作時の観察では,右母指と環指で近位箸を固定することができず,重ね箸となっていた.これは,右母指環指の内転筋の筋力低下が原因と考え,箸と母指,環指の接触部にスポンジを追加し,改善を図った.また,母指と手指の内転の筋力低下に対する訓練として,ちぎり絵を追加した.X+25日,右上肢で普通箸の箸操作が可能となった.
【結果(X+25日)】
理学所見は,Br.stage(Rt):V-V-IV,MFT(Rt/Lt):88/91となった.日常生活で右上肢の使用頻度が増えて,FIMは運動項目75/91点と向上を認めた.食事動作は右手で箸を使用し自立した.右肩甲帯挙上の代償動作は消失し,食事動作後に疲労感を感じることはなくなった.
【考察】
「脳卒中ガイドライン 2015」では,上肢麻痺へのアプローチとして課題指向型訓練が推奨されている(グレードB).本症例では,右上肢の屈筋共同運動パターンにより右上肢での食事動作が困難となった患者に対し,課題指向型訓練としてリーチ動作訓練と実動作訓練を行った. リーチ動作訓練と実動作訓練は,右肩関節屈曲時に右肩甲帯挙上が生じないよう動きを抑制しながら繰り返し行った.その結果,右肩甲帯と右肩関節の分離運動が促進されて,右上肢での食事動作獲得に至ったと考えられる.また,本症例はリハビリに意欲的であり,指示理解も良好であったことで自主訓練を積極的に行えていたことも,早期食事動作の獲得に繋がったと考えられる.