[PA-9-10] ポスター:脳血管疾患等 9胃瘻を用いた経管栄養の自己管理を目指した両片麻痺症例
【はじめに】摂食嚥下領域における作業療法士の役割として,黒住(2015)は機能障害の改善,姿勢や環境の設定,動作練習を挙げている.一方で,長期的な栄養管理のために胃瘻造設に至る例は多いが,その大部分は意識障害や高度の認知症を有していることから注入手技の指導は介護者に行われるのが一般的であり,胃瘻導入後に患者本人への介入がなされる機会は極めて少ないと言える.今回,脳梗塞後に重度の摂食嚥下障害と両片麻痺,失行症を呈し胃瘻を造設した一症例に対して,経管栄養の自己管理に向けた介入を行ったので経過とともに報告する.
【症例紹介】本発表に同意を得た50歳代右利き女性,両側の心原性脳塞栓症の診断で左右の中心前回・後回,島に梗塞を認めた.病前のADLは全自立であった.
【作業療法評価】発症2か月後のBRSは右上肢V手指IV,左上肢VI手指V,感覚は左右ともに重度鈍麻で,STEFは右2点,左14点であった.歩行は独歩で自立していた.高次脳機能面は,模倣障害や自動性と意図性の解離から失行症が疑われた.摂食嚥下機能については,重度の仮性球麻痺により経口での栄養摂取が困難で,経皮内視鏡的胃瘻造設術にて胃瘻カテーテル(エンドビブボタンⅡ)が留置された.この時点で食事以外のADLはいずれも修正自立レベルであり,一日複数回行う必要のある胃瘻の操作手技が獲得できれば,退院後の活動の自由度が拡大すると考えられた.胃瘻の操作場面においては,運動麻痺と感覚麻痺により,腹部のカテーテルの土台部分を固定しながらキャップを開ける,投与セットの接続時にチューブがねじれないよう適切な力でピンチする,シリンジで白湯を吸い上げる,栄養剤のパックを加圧バッグにセットする工程で何度もやり直しを要した.また,全工程で左右どちらの手を固定/操作として使用するかの選択に逡巡する様子が観察された.これらの背景に<は,新規の場面で最大能力を発揮できないといった失行症状も影響していると考えられた.
【介入と経過】介入時間は1日1~2時間とし,左右の運動麻痺および感覚麻痺に対する介入は,堀ら(2020)の報告を参考に片手から両手動作へと段階付けた.失行症に対しては,目標動作が明確であることから胃瘻操作の動作練習にエラーレスラーニング(Goldenbergら,1998)を援用し,工程ごとにエラーが最小限になるよう介助した.これらを並行して行うとともに,胃瘻操作時の運動麻痺および感覚麻痺に対する環境調整として,白湯を入れるコップの下に滑り止めを敷く,自宅環境も考慮し姿勢は長坐位かつ仙骨座りとして腹部の接続部分を視認しやすくすることなどを提案した.自己にて安全に実施できるようになった工程は,看護師へ注意点を伝達のうえ昼食時間に実践するようにし,徐々に病棟での実施回数を増やしていった.
【結果】発症5か月後,BRSは右上肢VI手指V,左上肢VI手指VI,感覚は左右とも中等度鈍麻でSTEFは右21点,左79点となった.胃瘻の操作手技は,栄養剤のパックを加圧バッグにセットする工程が主に感覚麻痺の影響で獲得に至らなかったが,シリンジを代用して注入操作を行うことで一連の手技は修正自立レベルとなった.
【考察】今回,胃瘻の操作手技を一つの作業活動として捉え介入を行った.目標動作の達成においては,各種の問題点に対する機能練習や動作練習,環境調整などの対応が有効であったと考えられた.本症例への介入経験を通して,作業療法士の視点や専門的知識は,経口摂取に限らず経管栄養の自己管理を目指す症例に対しても活用できると考えられた.
【症例紹介】本発表に同意を得た50歳代右利き女性,両側の心原性脳塞栓症の診断で左右の中心前回・後回,島に梗塞を認めた.病前のADLは全自立であった.
【作業療法評価】発症2か月後のBRSは右上肢V手指IV,左上肢VI手指V,感覚は左右ともに重度鈍麻で,STEFは右2点,左14点であった.歩行は独歩で自立していた.高次脳機能面は,模倣障害や自動性と意図性の解離から失行症が疑われた.摂食嚥下機能については,重度の仮性球麻痺により経口での栄養摂取が困難で,経皮内視鏡的胃瘻造設術にて胃瘻カテーテル(エンドビブボタンⅡ)が留置された.この時点で食事以外のADLはいずれも修正自立レベルであり,一日複数回行う必要のある胃瘻の操作手技が獲得できれば,退院後の活動の自由度が拡大すると考えられた.胃瘻の操作場面においては,運動麻痺と感覚麻痺により,腹部のカテーテルの土台部分を固定しながらキャップを開ける,投与セットの接続時にチューブがねじれないよう適切な力でピンチする,シリンジで白湯を吸い上げる,栄養剤のパックを加圧バッグにセットする工程で何度もやり直しを要した.また,全工程で左右どちらの手を固定/操作として使用するかの選択に逡巡する様子が観察された.これらの背景に<は,新規の場面で最大能力を発揮できないといった失行症状も影響していると考えられた.
【介入と経過】介入時間は1日1~2時間とし,左右の運動麻痺および感覚麻痺に対する介入は,堀ら(2020)の報告を参考に片手から両手動作へと段階付けた.失行症に対しては,目標動作が明確であることから胃瘻操作の動作練習にエラーレスラーニング(Goldenbergら,1998)を援用し,工程ごとにエラーが最小限になるよう介助した.これらを並行して行うとともに,胃瘻操作時の運動麻痺および感覚麻痺に対する環境調整として,白湯を入れるコップの下に滑り止めを敷く,自宅環境も考慮し姿勢は長坐位かつ仙骨座りとして腹部の接続部分を視認しやすくすることなどを提案した.自己にて安全に実施できるようになった工程は,看護師へ注意点を伝達のうえ昼食時間に実践するようにし,徐々に病棟での実施回数を増やしていった.
【結果】発症5か月後,BRSは右上肢VI手指V,左上肢VI手指VI,感覚は左右とも中等度鈍麻でSTEFは右21点,左79点となった.胃瘻の操作手技は,栄養剤のパックを加圧バッグにセットする工程が主に感覚麻痺の影響で獲得に至らなかったが,シリンジを代用して注入操作を行うことで一連の手技は修正自立レベルとなった.
【考察】今回,胃瘻の操作手技を一つの作業活動として捉え介入を行った.目標動作の達成においては,各種の問題点に対する機能練習や動作練習,環境調整などの対応が有効であったと考えられた.本症例への介入経験を通して,作業療法士の視点や専門的知識は,経口摂取に限らず経管栄養の自己管理を目指す症例に対しても活用できると考えられた.