第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-1] ポスター:呼吸器疾患 1

2022年9月16日(金) 14:00 〜 15:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PC-1-2] ポスター:呼吸器疾患 1COVID-19患者の嗅覚と抑うつ状態との関連性~回復期リハビリテーション病棟に入院する 1 例の重症患者に対する検査結果から~

川田 佳央12関 一彦3加賀谷 祐樹1 (1東京ちどり病院,2東京都立大学大学院博士後期課程,3帝京平成大学健康医療スポーツ学部)

【序論】COVID-19が世界的に流行を始めてから2年が経過し,これまで多くの報告がなされてきた.初期症状として嗅覚障害が生じることが広く知られており,リハビリテーションにおいては,身体機能だけでなく精神心理面への留意も必要である(今井ら,2022).しかし,COVID-19患者の嗅覚障害と精神心理面との関連性についての報告は少ない.今回,COVID-19患者一例の嗅覚と抑うつ状態の把握を目的に評価を行ったため報告する.なお,本研究は当院『倫理委員会』承認のもと,患者や家族の同意を得て実施した.また,開示すべきCOI関係にある企業等はない.【症例】60代,男性,高血圧と糖尿病の既往あり,兄弟との3人暮らし,ADL自立,食品工場勤務.発熱後に呼吸器症状が出現し,COVID-19による重度の肺炎のため他院に入院し,1週間ほど挿管型人工呼吸器による治療を受けた.発症36日後,ADL改善目的に当院回復期リハビリテーション病棟へ入棟し,作業療法(以下OT)を開始した.OT開始時,HDS-R23点,FIM100点(運動項目71点,認知項目29点),呼吸器以外の身体機能に制限はなく,O2カニューラ使用し(安静時1L/min,労作時3~4L/min),SpO290%前後であった.軽作業や前傾姿勢においても息切れとSpO2が低下する一方で自覚症状に乏しかったため,過度に息を吸い込むことや座位での前傾姿勢が強まる可能性のある嗅覚検査と抑うつ状態の評価は困難であった.なお,症例は嗅覚低下の要因である鼻炎の既往と喫煙歴はなく,また,COVID-19発症後に嗅覚低下の訴えはなかった.【経過】OTではADL向上と復職に向けた運動耐容能の向上を目的に介入を行った.当院入院1ケ月後,認知機能に変化はなく,労作時においてもO2カニューラが不要となり,FIM115点(運動項目86点,認知項目29点)となった.息切れがみられることはあったが,SpO290%前後であり,呼吸状態が安定したため嗅覚検査と抑うつ状態の評価を実施した.嗅覚検査には嗅覚研究用嗅覚同定能力測定用カードキット-12種類を使用し,匂いの有無(検知能)と匂いの同定能(認知能)を確認した.本嗅覚検査はカードに付着した匂いを嗅ぎ,4種の匂いの選択肢及び「分からない」「無臭」の6項目から選択する.墨汁やミカンの匂いなど全12種類から構成され,60代の平均正答数(認知能)は9/12である.抑うつ状態の評価にはZung’s Self-rating Depression Scale(以下SDS,39点以下:正常,40~49点:境界群,50点以上:抑うつ状態)を用いた.結果は,検知能12/12,認知能10/12,SDS49点であった.当院入院2か月後,O2カニューラなしでもSpO290%を下回ることや息切れすることは減少し,復職可能と判断されたため退院となった.退院時,HDS-R24点,FIM120点(運動項目91点,認知項目29点)点,検知能12/12,認知能9/12,SDS50点であった.【考察】症例は,厚生労働省の定める重症度分類において重度に分類されたが,退院時のADLは自立レベルで復職も可能な状態であった.嗅覚低下と抑うつ状態との関連性が指摘されているが(米沢ら,2020),症例は,嗅覚は正常であるものの抑うつ傾向にあり,嗅覚以外の要因が抑うつ状態を引き起こしたと考えられる.一方,COVID-19の中等症例においては,今後の生活への不安などが精神心理面へ影響を与える(今井ら,2022).今後は再感染や症状再発への不安など,重症例が抑うつ状態に至る要因の分析とともに退院後の支援についての検討も必要である.また,嗅覚は食事や調理,生活上の安全確保などOTにも大きく関与するため,継続して調査を行っていきたい.