第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-3] ポスター:呼吸器疾患 3

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PC-3-1] ポスター:呼吸器疾患 3短期的な肺炎再発におけるWRAPの導入がその後の再発予防に有効であった1例

廣瀬 友紀1樋山 晶子1齊藤 久子2 (1公益財団法人 筑波メディカルセンター病院リハビリテーション療法科,2公益財団法人 筑波メディカルセンター病院リハビリテーション科)

【はじめに】
びまん性汎細気管支炎(以下DPB)の再燃により短期的に肺炎を繰り返す事例に対して,元気回復行動プラン(以下WRAP)を活用したセルフマネジメント教育を実施した.行動変容に加えて,多職種,家族との情報共有ツールとして有用であった為,報告する.尚,発表に際し事例より同意を得た.
【事例紹介】
50歳代,男性.[診断名]肺炎.[現病歴]Z-30日より発熱と息切れを認め,服薬治療を継続したが,症状改善に至らずX年Y月Z日に入院加療となった.Z+25日に自宅退院するも肺炎再発により,Z+37日に再入院となった.[呼吸機能]%VC:70.5%,FEV1.0%:51.9%.[身体機能]握力:右34.6/左36.7㎏,下腿周囲長:右27.3/左27.6㎝,6分間歩行試験:330m.[既往歴]X-20年DPB,気管支喘息.[生活歴]妻と2人暮らし.買い物を担う他,ライターとして在宅勤務.
【経過とアプローチ】
[初回入院時(Z+2日~24日)]労作時の低酸素血症(SpO2 ≦85%)及び頻呼吸(≧35回/分)と頻脈(≧120回/分)を認めるも,修正Borg scale(以下mBS)は1-2と自覚症状に乏しかった.事例の目標は「酸素投与無しでの買い物と仕事復帰」であった.治療経過で酸素化は改善するも,肺高血圧症を併発し頻呼吸と頻脈は残存した.在宅酸素療法(以下HOT)導入を提案するも,酸素投与量の漸減がモチベーションであることと,外観及び活動範囲が縮小する先入観から受け入れ困難であった.病態進行の不安から自主訓練の頻度は増し,心肺負荷が懸念された.目標達成の為に,行動と現症の乖離を是正する必要があり,WRAP導入によるセルフマネジメント教育を実施した.WRAPは精神・身体状況の変化を捉え,対処法を予め決めておくアプローチであり,症状の重症化を予防するツールである.今回は身体状況を「安定」,「注意」,「介入必要」の3項目に分け,各々の項目で実施する行動をプランニングした.各項目の基準は身体所見(SpO2,脈拍,呼吸数)と自覚症状とした.本事例では特に「安定」の維持に着目し,安定期をSpO2 ≧87%,脈拍≦120回/分以下,呼吸数≦30回/分,mBS≦2と設定した上で動作指導を実施した.また,設定内容から逸脱する場合を「注意」とし,休息と早期診察を指導した.上記内容は本人直筆で書面化し,能動的学習を促した.[自宅療養(Z+25~36日)]動作定着により在宅勤務は可能となった.一方で発熱等のプランに無い病態管理と家族への病状報告が不十分であり,肺炎再発後の治療開始が遅延した.低酸素血症と呼吸苦が顕著化し,かかりつけ医でHOT導入となった.[2回目入院時(Z+38日~59日)]目標は「HOT使用下で呼吸苦を軽減し,再入院を防止しながら,買い物と仕事を継続」と変化した.病態管理に着目し,早期にWRAPを導入した.主治医,看護師とWRAPにて情報共有し,病態管理と症状出現時の対応を再検討した.前回作成プランに"体温"を追加し,家族による身体所見の客観的評価を指導した.更に,症状出現時に円滑な対応を図る為に訪問看護を導入し,作成したWRAPは訪問看護及びかかりつけ医へ情報提供ツールとして活用した.退院後は再入院せず経過している.
【考察】
WRAPは精神領域で使用されるセルフマネジメントツールの一つであるが,呼吸器疾患においても有効性が述べられている.今回,短期的な肺炎再発により再入院した事例に対して,2度のWRAPを実施した.WRAPは,能動的学習を促す中で指導内容の整理と動作定着に有効であった.更に医療者,家族との情報共有ツールとしても活用可能と考える.一方でプラン上に組み込まれていない内容は対応困難な可能性があり,多職種でのプランニングと病態変化に対応する為の定期的なプラン再検討が必要であると考える.