[PD-2-1] ポスター:運動器疾患 2母指ばね指に対するIP関節Blocking splintの効果
はじめに
屈筋腱狭窄性腱鞘炎(以下ばね指)は中年女性に好発する機械的腱鞘炎であり,ADLを制限することからOTが関わる機会も多い.
ばね指に対するハンドセラピィは,阿部による病期分類のgrade1~4に対しては保存的治療が試みられ,装具療法,薬物療法,理学療法が行われる.OTが行う介入の一つにsplitを用いた装具療法があるが, 母指のばね指に対する固定肢位に一定の見解は得られていない. 本報告では,阿部による病期分類grade4のばね指症例に対してIP関節blocking splint(以下IPJ-BS)を用いた介入を行い,症状が軽減した症例を経験したため,ばね指に対するIPJ-BSの効果についての考察を加え,以下に報告する.なお,発表に際し症例の同意を得ている.
事例紹介
70代前半,女性,利き手は右.弁当製造業.X年Y月に勤務中に右母指屈曲時のクリックを自覚, 近医にて腱鞘内ステロイド注射を受けた. 一旦症状が軽減したが, その後再発. 計三回の注射を行ったが症状が再発したため腱鞘切開術を勧められた. Y+6月に保存療法を希望し当院受診.右母指ばね指と診断され当日よりOT開始となった.初回評価では阿部による病期分類のGrade 4,母指MP関節掌側部の腫瘤と圧痛を認めた.熱感・腫脹は認めず,疼痛VASは安静時0mm,IP関節屈曲時60mm.母指自動可動域(伸展/屈曲)はMP関節10°/50°,IP関節20°/60°であった.開始時Q-DASHは機能障害スコア25点,職業スコア31.25点.
経過
OT初回にてIP関節伸展位でIPJ-BSを製作し装着を指導した.自宅が遠方のため, 通院頻度は2から4週に一回程度とした. IPJ-BS装着4週目より疼痛が軽減し, IP関節の70°までの自動屈曲が可能となった.8週目のIP関節屈曲時の疼痛VASは0㎜,grade1となり,自動ROM制限は認めなかった.Q-DASH機能障害スコア0点,職業スコア0点であった.
考察
Grade 4の母指ばね指症例に対してIPJ-BSを用いて固定を行った本症例において,症状の改善を認めた.母指ばね指の病態は,A1pulleyでの屈筋腱と腱鞘の間の摩擦により起こる機械的炎症である.沖ら(2020)の報告では, 母指ばね指のIP関節固定により50%で症状の改善が得られたとしている.本症例においてはMP関節単独屈曲時には弾発現象は出現せず, IP関節の屈曲時に弾発現象が出現していた. 母指MP関節屈曲時は母指球筋である短母指屈筋が働き, IP関節屈曲時には長母指屈筋が働く.本症例で使用したIPJ-BSにより長母指屈筋腱の滑走が制限され, 炎症と修復の繰り返しを防止することでA1pulley部での炎症を鎮静化できたものと考える.
症例のADLや職業動作を評価したうえで装具の選択を行う必要はあるが,ばね指症例に対するIPJ-BSを用いた装具療法に一定の効果があると考えられる.
屈筋腱狭窄性腱鞘炎(以下ばね指)は中年女性に好発する機械的腱鞘炎であり,ADLを制限することからOTが関わる機会も多い.
ばね指に対するハンドセラピィは,阿部による病期分類のgrade1~4に対しては保存的治療が試みられ,装具療法,薬物療法,理学療法が行われる.OTが行う介入の一つにsplitを用いた装具療法があるが, 母指のばね指に対する固定肢位に一定の見解は得られていない. 本報告では,阿部による病期分類grade4のばね指症例に対してIP関節blocking splint(以下IPJ-BS)を用いた介入を行い,症状が軽減した症例を経験したため,ばね指に対するIPJ-BSの効果についての考察を加え,以下に報告する.なお,発表に際し症例の同意を得ている.
事例紹介
70代前半,女性,利き手は右.弁当製造業.X年Y月に勤務中に右母指屈曲時のクリックを自覚, 近医にて腱鞘内ステロイド注射を受けた. 一旦症状が軽減したが, その後再発. 計三回の注射を行ったが症状が再発したため腱鞘切開術を勧められた. Y+6月に保存療法を希望し当院受診.右母指ばね指と診断され当日よりOT開始となった.初回評価では阿部による病期分類のGrade 4,母指MP関節掌側部の腫瘤と圧痛を認めた.熱感・腫脹は認めず,疼痛VASは安静時0mm,IP関節屈曲時60mm.母指自動可動域(伸展/屈曲)はMP関節10°/50°,IP関節20°/60°であった.開始時Q-DASHは機能障害スコア25点,職業スコア31.25点.
経過
OT初回にてIP関節伸展位でIPJ-BSを製作し装着を指導した.自宅が遠方のため, 通院頻度は2から4週に一回程度とした. IPJ-BS装着4週目より疼痛が軽減し, IP関節の70°までの自動屈曲が可能となった.8週目のIP関節屈曲時の疼痛VASは0㎜,grade1となり,自動ROM制限は認めなかった.Q-DASH機能障害スコア0点,職業スコア0点であった.
考察
Grade 4の母指ばね指症例に対してIPJ-BSを用いて固定を行った本症例において,症状の改善を認めた.母指ばね指の病態は,A1pulleyでの屈筋腱と腱鞘の間の摩擦により起こる機械的炎症である.沖ら(2020)の報告では, 母指ばね指のIP関節固定により50%で症状の改善が得られたとしている.本症例においてはMP関節単独屈曲時には弾発現象は出現せず, IP関節の屈曲時に弾発現象が出現していた. 母指MP関節屈曲時は母指球筋である短母指屈筋が働き, IP関節屈曲時には長母指屈筋が働く.本症例で使用したIPJ-BSにより長母指屈筋腱の滑走が制限され, 炎症と修復の繰り返しを防止することでA1pulley部での炎症を鎮静化できたものと考える.
症例のADLや職業動作を評価したうえで装具の選択を行う必要はあるが,ばね指症例に対するIPJ-BSを用いた装具療法に一定の効果があると考えられる.