[PD-3-1] ポスター:運動器疾患 3プロフルート奏者の母指MP関節部痛を軽減させたIP関節スプリント
【はじめに】
フルートは悪魔の楽器といえるほど肉体への問題が多いと言われている.唇,左示指基節,右母指指腹の3点で支持することが基本姿勢であり,同部位に筋骨格系の問題が生じやすい.今回,プロフルート奏者の母指MP関節尺側側副靭帯損傷術後にMP関節部痛を軽減させるため,IP関節にスプリントを装着することで,早期に演奏復帰できたため報告する.尚,報告に際し,患者本人に同意を得ている.
【症例紹介】
患者は30代女性.右利き.演奏歴25年のプロのフルート奏者である.15年以上前から右母指MP関節部痛を自覚していた.ステロイド局注にて,痛みのコントロールを行っていたが,症状が増悪したため来院した.単純 X線検査で右母指MP関節の軟骨変性を認め,尺側側副靭帯は不全断裂を呈していた.右母指MP関節尺側側副靭帯損傷と診断し,長掌筋腱による靭帯再建術を施行した.
【術前評価】
術前の自動関節可動域は母指MP関節伸展-10°屈曲52°,IP関節伸展51°屈曲66°であった.握力は右16.0kg左26.0kg,母指と示指による指腹つまみは右0.4kg左3.0kg.Hand 20は63点で,Quick Disability of the Arm, Shoulder, and Hand (以下,Quick DASH) は機能障害/症状39点,仕事94点,音楽94点であった.疼痛はNumerical Rating Scale(以下,NRS)で演奏時に母指MP関節部にNRS8/10の痛みが出現していた.
【経過】
術後は手関節から母指MP関節までをシーネにて固定し,IP関節のみリハビリを行った.術後4週で母指MP関節の仮固定ピンを抜去し,自動運動を始めた.また演奏時のMP関節への負荷を減らすスプリント作製を開始した.術後6週でIP関節スプリントを装着下にピッコロ(小型の高音フルート)で演奏に復帰した. 術後3ヵ月時点で,自動関節可動域は母指MP関節伸展-6°屈曲48°,IP関節伸展36°屈曲60°であった.握力は右25.0kg左28.0kg,母指と示指による指腹つまみは右3.8kg左4.3kgに改善していた.Hand 20は23.5点で,Quick DASHは機能障害/症状11点,仕事13点,音楽6点.疼痛は演奏時に母指MP関節部にNRS 3/10の痛みが残存していた.しかし,スプリント装着下ではNRS 0/10で痛みが軽減するため,装着下の演奏を継続している.
【考察】
母指MP関節部痛を軽減させる道具には短対立スプリントやフルート奏者専用の補助具がある.しかし,我々のIP関節スプリントには既存の道具とは異なる2つの特徴がある.1つ目はIP関節にスプリントを装着すること.2つ目は楽器に指以外が接触しないことである.
まず,IP関節にスプリントを装着することは,演奏の妨げにならない利点がある.短対立スプリントはMP関節から手掌部まで固定し,疼痛を軽減させる.しかし固定範囲が広く,音楽家にとっては指の自由な動きに支障をきたす.IP関節スプリントはMP関節以遠で完結しており,演奏に干渉しない.
次に,楽器に指以外が接触しないことは,楽器の音色を変えないために重要である.患者はMP関節部痛を軽減させるため,演奏時に補助具を使用していた.しかし,楽器に取り付ける道具であり,音色の変化を気にしていた.我々のIP関節スプリントはスプリント材を一部くり抜き,楽器に指のみが接触するように工夫した.これにより,音色の変化なく演奏することができた.
フルートを支えるために右母指IP関節には過伸展方向への強制力が働く.演奏スピードが上がると,強制力が増し,MP関節部にまで負荷が生じていたと考える.我々のスプリントの作用機序はIP関節過伸展力がMP関節橈側ストレスに変換されることの予防であり,これによってMP関節部痛が軽減したと推察した.
フルートは悪魔の楽器といえるほど肉体への問題が多いと言われている.唇,左示指基節,右母指指腹の3点で支持することが基本姿勢であり,同部位に筋骨格系の問題が生じやすい.今回,プロフルート奏者の母指MP関節尺側側副靭帯損傷術後にMP関節部痛を軽減させるため,IP関節にスプリントを装着することで,早期に演奏復帰できたため報告する.尚,報告に際し,患者本人に同意を得ている.
【症例紹介】
患者は30代女性.右利き.演奏歴25年のプロのフルート奏者である.15年以上前から右母指MP関節部痛を自覚していた.ステロイド局注にて,痛みのコントロールを行っていたが,症状が増悪したため来院した.単純 X線検査で右母指MP関節の軟骨変性を認め,尺側側副靭帯は不全断裂を呈していた.右母指MP関節尺側側副靭帯損傷と診断し,長掌筋腱による靭帯再建術を施行した.
【術前評価】
術前の自動関節可動域は母指MP関節伸展-10°屈曲52°,IP関節伸展51°屈曲66°であった.握力は右16.0kg左26.0kg,母指と示指による指腹つまみは右0.4kg左3.0kg.Hand 20は63点で,Quick Disability of the Arm, Shoulder, and Hand (以下,Quick DASH) は機能障害/症状39点,仕事94点,音楽94点であった.疼痛はNumerical Rating Scale(以下,NRS)で演奏時に母指MP関節部にNRS8/10の痛みが出現していた.
【経過】
術後は手関節から母指MP関節までをシーネにて固定し,IP関節のみリハビリを行った.術後4週で母指MP関節の仮固定ピンを抜去し,自動運動を始めた.また演奏時のMP関節への負荷を減らすスプリント作製を開始した.術後6週でIP関節スプリントを装着下にピッコロ(小型の高音フルート)で演奏に復帰した. 術後3ヵ月時点で,自動関節可動域は母指MP関節伸展-6°屈曲48°,IP関節伸展36°屈曲60°であった.握力は右25.0kg左28.0kg,母指と示指による指腹つまみは右3.8kg左4.3kgに改善していた.Hand 20は23.5点で,Quick DASHは機能障害/症状11点,仕事13点,音楽6点.疼痛は演奏時に母指MP関節部にNRS 3/10の痛みが残存していた.しかし,スプリント装着下ではNRS 0/10で痛みが軽減するため,装着下の演奏を継続している.
【考察】
母指MP関節部痛を軽減させる道具には短対立スプリントやフルート奏者専用の補助具がある.しかし,我々のIP関節スプリントには既存の道具とは異なる2つの特徴がある.1つ目はIP関節にスプリントを装着すること.2つ目は楽器に指以外が接触しないことである.
まず,IP関節にスプリントを装着することは,演奏の妨げにならない利点がある.短対立スプリントはMP関節から手掌部まで固定し,疼痛を軽減させる.しかし固定範囲が広く,音楽家にとっては指の自由な動きに支障をきたす.IP関節スプリントはMP関節以遠で完結しており,演奏に干渉しない.
次に,楽器に指以外が接触しないことは,楽器の音色を変えないために重要である.患者はMP関節部痛を軽減させるため,演奏時に補助具を使用していた.しかし,楽器に取り付ける道具であり,音色の変化を気にしていた.我々のIP関節スプリントはスプリント材を一部くり抜き,楽器に指のみが接触するように工夫した.これにより,音色の変化なく演奏することができた.
フルートを支えるために右母指IP関節には過伸展方向への強制力が働く.演奏スピードが上がると,強制力が増し,MP関節部にまで負荷が生じていたと考える.我々のスプリントの作用機序はIP関節過伸展力がMP関節橈側ストレスに変換されることの予防であり,これによってMP関節部痛が軽減したと推察した.