第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-5-5] ポスター:運動器疾患 5転倒により骨折した高齢者における運動イメージ能力の特徴~健常成人との比較~

坂主 成美1,3矢野 羽奈2平野 大輔2,3谷口 敬道2,3 (1国際医療福祉大学塩谷病院リハビリテーション室,2国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科,3国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)

【はじめに】超高齢社会となった現在,高齢者の転倒が問題となっている.厚生労働省が実施している国民生活基礎調査では,介護が必要となった原因の第3位が「骨折・転倒」である.先行研究により高齢者の転倒要因として身体機能の低下が挙げられている中で近年,運動イメージと実際の運動との乖離,運動の予測能力の低下が新たな転倒要因として着目されている.認知機能の側面から再転倒予防に着目した介入が必要になると考えた.入院中の骨折患者は,1日の中でリハビリの時間を除いた約20時間をベッド上で過ごす.1日の活動性が低下することで,特に後期高齢者の場合は身体機能だけではなく,認知機能の低下にも注意し,同時に対応していかなくてはならない.そこで,本研究では高齢者の運動イメージ能力に注目した.これは,転倒リスクを評価する指標に成り得る可能性がある.
【目的】本研究は,転倒による下肢の骨折で入院中の高齢者のもつ運動イメージ能力を健常成人の運動イメージ能力と比較し,特徴を明らかにすることを目的とする.
【方法】対象は,転倒による下肢の骨折で入院中の高齢者4名(平均年齢83.3±7.2歳)と健常成人32名(21.3±1.3歳).運動イメージ能力を評価する方法として,メンタルローテーション課題(以下MR課題)とポインティング課題を実施した.MR課題は,0度・90度・-90度・180度回転している手足の写真計32枚をランダムにパソコンのディスプレイ上に表示する.写真呈示後,できるだけ早く右手(足),左手(足)を口頭で回答し,写真1枚ごとの反応時間と回答を記録した.ポインティング課題は,紙面上に同じ大きさの2個の正方形を交互にポインティングさせた.正方形の一辺の長さは5㎜,10㎜,15㎜,20㎜の4種類で実施.実測値と予測値の絶対値差を測定した.
分析は,高齢者と健常成人のMR課題の反応時間の比較と,ポインティング課題の実測値と予測値の比較にt検定を用いた.また,見積り誤差を実測値と予測値の差から求めた.なお,本研究の実施にあたり所属機関倫理委員会の承認を得てから実施した.
【結果】MR課題の反応時間は高齢者で4,883±675msであり,健常成人の2,123±553msと比べて有意に反応時間が遅延することを認めた(p=0.034).ポインティング課題において健常成人では20㎜の時に実測値は4,386±2,040msであり,予測値の4,982±2,174msとの間で有意差を認めた(p=0.006).また,高齢者では5㎜の時に実測値は12,445±3,248msであり,予測値の7,074±2,186msとの間で有意差を認めた(p=0.049).見積り誤差は,健常成人では実測値よりも遅く見積もる人が有意に多く (p=0.018),高齢者では,4人中4人が実測値よりも速く見積もっていた.
【考察】転倒による骨折で入院中の高齢者は,運動量が低下したことによって感覚入力が低下し身体図式を感じにくくなったことで,運動イメージを想起する時間が遅延していた.また,健常成人では自身の身体能力を過小評価する傾向,高齢者では過大評価する傾向にあった.今回測定したMR課題を用いた先行研究では,転倒リスクの高い高齢者の反応時間は延長することが明らかになっている.また,見積り誤差が大きい高齢者は転倒リスクが高く,転倒回数が多い高齢者は過大評価する傾向にあることが示唆されている.
臥床期間は運動量が低下するため,見積り誤差がさらに大きくなることが予測される.そこで身体的にベッド上で生活をせざるを得ない高齢者にMR課題やポインティング課題を用いて見積り誤差を軽減する作業療法を実施することは,繰り返す転倒を予防することに役立つと考える.今後,さらに症例を増やし,検討していきたい.