[PD-7-2] ポスター:運動器疾患 7高齢者上腕骨近位端骨折の積極的保存療法を再考する
【はじめに】
上腕骨近位端骨折(以下本骨折)に対する当院の治療選択は,整復が良好でかつ治療方針を十分理解できる認知機能を有する患者を積極的保存療法の基準としている.しかし外固定期間が長く治療終了までに長期間を要するという認識を持たれやすいため,近年手術療法を選択する症例が増加している現状がある.
今回,本骨折と診断された患者の治療成績について調査した.尚,本研究において当院倫理審査委員会で承認を得,倫理的配慮としてオプトアウトを行った.
【対象と方法】
対象は2018年10月から2021年12月に当院にて本骨折と診断された47例を,手術群27例(平均年齢76.1歳)保存療法群20例(平均年齢74.7歳)に分け,Neer分類における骨折型・保存療法群の骨癒合・経過観察期間・残存疼痛・自動挙上角度について調査した.
【結果】
Neer分類は手術群で2-part 19例,3-part 5例,4-part 3例であり固定方法はplate 24例,髄内釘1例,人工骨頭1例,K-wire 1例であった.保存療法群はNeer分類1-part 7例,2-part 12例,3-part1例であった.
手術群の経過観察期間は平均28.2週(3~64週),自動挙上角度は平均101.5°(91°~105°:2-part 105°),2例に疼痛が残存した.保存療法群の経過観察期間は平均19.8週(8~32週),自動挙上角度は平均119.8°(118°~130°:2-part 120°),2例に疼痛が残存した.保存療法群では追跡できなかった1例を除き全例骨癒合を得た.
【考察】
保存療法は石黒法に準じた早期運動療法を実施している.石黒法は自主訓練が主な治療となるため,患者は患肢管理できる認知機能とルールを遵守するコンプライアンスを有する必要がある.
今回の調査では自動挙上角度で手術群に比べ保存療法群の方が良好な結果であった.保存療法群には1-part骨折例が多く,成功例は概ねコンプライアンスが良好であること,手術群の受傷機転が高エネルギー外傷を含む転位の大きな骨折が多いことが要因と考えられる.
2-part骨折の平均自動挙上角度について当真らは保存療法群で107°であったと報告し,中澤らは保存療法群で128°,手術群で134°であったと報告している.これらと比較しても当院の保存療法は一定の結果を示していると言える.
残存疼痛は両群とも2例ずつ存在したが,保存療法群では受傷後3か月経過するとRA例を除いて全例疼痛が消失していた.
近年本骨折に対する手術療法は増加しているが,術後合併症は20~49%,再手術率は11~16%との報告もあり,決して少なくない.一方,保存療法後の偽関節率は8%~19%との報告があり,当院の先行研究でも偽関節率11%,うち75%が認知症例であったと報告されており,保存療法における認知機能の重要性が示唆される.
石黒は目で確認しながら頭上の物を取るには約120°の可動域があれば十分である,と述べている.今回の結果からも認知機能やコンプライアンスに問題がなければ,保存療法で十分な可動域を獲得できると言える.
若年で早期社会復帰を必要とする場合手術療法が選択されることが多いが,術後疼痛や身体的負荷の大きさを考えると認知症のない高齢者には積極的保存療法を再考すべきではないだろうか.
上腕骨近位端骨折(以下本骨折)に対する当院の治療選択は,整復が良好でかつ治療方針を十分理解できる認知機能を有する患者を積極的保存療法の基準としている.しかし外固定期間が長く治療終了までに長期間を要するという認識を持たれやすいため,近年手術療法を選択する症例が増加している現状がある.
今回,本骨折と診断された患者の治療成績について調査した.尚,本研究において当院倫理審査委員会で承認を得,倫理的配慮としてオプトアウトを行った.
【対象と方法】
対象は2018年10月から2021年12月に当院にて本骨折と診断された47例を,手術群27例(平均年齢76.1歳)保存療法群20例(平均年齢74.7歳)に分け,Neer分類における骨折型・保存療法群の骨癒合・経過観察期間・残存疼痛・自動挙上角度について調査した.
【結果】
Neer分類は手術群で2-part 19例,3-part 5例,4-part 3例であり固定方法はplate 24例,髄内釘1例,人工骨頭1例,K-wire 1例であった.保存療法群はNeer分類1-part 7例,2-part 12例,3-part1例であった.
手術群の経過観察期間は平均28.2週(3~64週),自動挙上角度は平均101.5°(91°~105°:2-part 105°),2例に疼痛が残存した.保存療法群の経過観察期間は平均19.8週(8~32週),自動挙上角度は平均119.8°(118°~130°:2-part 120°),2例に疼痛が残存した.保存療法群では追跡できなかった1例を除き全例骨癒合を得た.
【考察】
保存療法は石黒法に準じた早期運動療法を実施している.石黒法は自主訓練が主な治療となるため,患者は患肢管理できる認知機能とルールを遵守するコンプライアンスを有する必要がある.
今回の調査では自動挙上角度で手術群に比べ保存療法群の方が良好な結果であった.保存療法群には1-part骨折例が多く,成功例は概ねコンプライアンスが良好であること,手術群の受傷機転が高エネルギー外傷を含む転位の大きな骨折が多いことが要因と考えられる.
2-part骨折の平均自動挙上角度について当真らは保存療法群で107°であったと報告し,中澤らは保存療法群で128°,手術群で134°であったと報告している.これらと比較しても当院の保存療法は一定の結果を示していると言える.
残存疼痛は両群とも2例ずつ存在したが,保存療法群では受傷後3か月経過するとRA例を除いて全例疼痛が消失していた.
近年本骨折に対する手術療法は増加しているが,術後合併症は20~49%,再手術率は11~16%との報告もあり,決して少なくない.一方,保存療法後の偽関節率は8%~19%との報告があり,当院の先行研究でも偽関節率11%,うち75%が認知症例であったと報告されており,保存療法における認知機能の重要性が示唆される.
石黒は目で確認しながら頭上の物を取るには約120°の可動域があれば十分である,と述べている.今回の結果からも認知機能やコンプライアンスに問題がなければ,保存療法で十分な可動域を獲得できると言える.
若年で早期社会復帰を必要とする場合手術療法が選択されることが多いが,術後疼痛や身体的負荷の大きさを考えると認知症のない高齢者には積極的保存療法を再考すべきではないだろうか.