第56回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

運動器疾患

[PD-7] ポスター:運動器疾患 7

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PD-7-3] ポスター:運動器疾患 7変形性股関節症に対する人工股関節全置換術後に脱臼を呈した原因の一考察

小田 隆史1田中 義弘1 (1山口県済生会山口総合病院リハビリテーション部)

【緒言】
人工股関節全置換術(total hip arthroplasty以下THA)は変形性股関節症や大腿骨頭壊死などの疾患を適応とした治療法として確立している.今回,変形性股関節症に対してTHAが施行され,実用歩行および脱臼回避肢位を獲得したにも関わらず,術後脱臼を生じた症例を経験した.内省も兼ねて脱臼原因を推察したので報告する.
【症例提示】
70歳代,女性,診断名は右変形性股関節症である.既往歴は,肺動脈性肺高血圧症,慢性血栓塞栓性肺高血圧症,うっ血性心不全である.5年前より,荷重時に軽度の右股関節痛を自覚し近医受診する.内服にて疼痛管理をされるが,荷重時疼痛は徐々に増悪をきたし,当院整形外科紹介となり後方侵入にてTHAが施行された.
【術後経過】
術後より脱臼予防を目的として,就寝時は,背臥位にて両下肢は外転枕で固定した.なお,外転枕は3週間の使用とした.リハビリテーションは,術翌日より開始となった.開始時,股関節の可動域は他動にて,屈曲100°伸展10°外転45°外旋50°内転20°内旋35°であった.同日より,関節可動域訓練および平行棒内歩行を開始した.術後4日にて,病棟内での歩行器歩行,日常生活動作は入浴と靴下着脱以外は自立となった.術後6日にて,一本杖歩行,20㎝の段差昇降が自立し,開排位での靴下の着脱も可能となった.術後10日にて,実用歩行が可能となったが,術後13日,就寝中に術側の右股関節内側に疼痛を認め前方への脱臼を確認したため翌日麻酔下にて徒手整復された.
また,離床およびリハビリは,徒手整復の翌日より再開した.リハビリは,術側股関節の関節可動域訓練から再開し,歩行器歩行から実用歩行に向けた歩行訓練を段階的に進めた.徒手整復後の股関節は,THA施行後の関節可動域と同様であった.生活内の動作指導は,侵入方向による禁忌肢位に加え,股関節の伸展や外旋方向への運動を過剰に行わないように指導した.靴下の着脱に関しても,自助具を使用するよう指導を行った.以降は脱臼を認めず術後26日に独歩にて自宅退院となった.
【考察】
本邦でのTHA施行後の脱臼は動作遂行中が大半を占め,その確率は0.5~5%であると報告されている.本症例の脱臼原因の詳細は不明であるが,推察される原因として,脱臼は就寝中であり両側の下肢は外転枕によって固定にされていた.その状態から側臥位に寝返ることにより,術側の股関節が伸展かつ内旋や外旋力が加わった際に,ステムネックとライナーのインピンジが生じたことが脱臼の直接的な原因ではないかと推察した.整復後は股関節伸展方向への運動などに留意し,動作指導も実施した結果,再脱臼は認めなかった.就寝時の姿勢も十分に配慮すべきであると反省した.
【結語】
今回,THA施行後に脱臼を生じた症例を経験した.作業療法で行う動作指導は日常生活動作だけでなく,就寝時の術肢管理にも注意が必要である.