第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-8-1] ポスター:運動器疾患 8全人工膝関節置換術後症例に対する,目標共有を取り入れた作業療法と触圧覚識別課題の併用効果~術後遷延痛予防に向けた取り組み~

福井 美晴1田中 陽一2 (1奈良県総合リハビリテーションセンター,2兵庫医科大学リハビリテーション学部)

【はじめに】全人工膝関節置換術(total knee arthroplasty;以下,TKA)後患者において,10~34%の割合で疼痛が遷延化するとされている(Johnson, 2020).従来から,TKA術後の疼痛遷延化には情動面に加え,無視様症候群といった身体知覚異常の関与が指摘されている(Hirakawa, 2014).疼痛の情動面に関しては,目標共有を取り入れた作業療法介入による効果が多数報告されているが(平賀,2016),身体知覚異常の程度が強い者ではこうした目標共有介入のみでは効果が限定的であることも指摘されている(田中, 2020).そこで今回,TKA後に痛みの情動面だけではなく身体知覚異常が高値であった症例に対し,目標共有介入と触圧覚識別課題を併用して行った結果,良好な改善が得られた為以下に報告する.
【方法】症例は10年程前から右膝の疼痛があった80歳代の女性.右TKA術後15日経過時点で当院の回復期リハビリテーション病棟へ転院となった.当院に転院後,Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC)を用いて目標設定を行い,目標に即した作業療法介入を開始した.また,身体知覚異常に対し,スポンジ硬度の識別を行わせる硬度弁別課題と症例の患部を6分割し刺激部位の識別を行わせる触覚弁別課題を目標共有介入と並行して実施した.評価項目として疼痛強度はNumerical Rating Scale(NRS),痛みの破局的思考はPain Catastrophizing Scale 短縮版(PCS-6),感覚機能は二点識別覚閾値(Two-Point Dis-crimination Threshold:TPD),身体知覚異常はThe Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)および描画法を用い,初期(術後18日目),中間(術後40日目),最終(術後54日目)でそれぞれ評価を行った.
介入を行うにあたり,本研究の目的,内容について書面で説明を行い同意を得た.また,当院の倫理審査委員会の承認(承認番号:R3-リハNo.1)を得て行った.
【経過と結果】初期評価の結果,疼痛強度は特に夜間時痛で高値を示し(7/10),身体知覚異常の程度も比較的高い状態であると推察された(FreKAQ:15/36).中間評価時の硬度弁別課題では,介入開始時より正答率のばらつきが大きい状態であったが,触覚識別課題においては,識別能力の低下を認めていた部位においても概ね50%以上の正答率で識別が可能となっていった.最終評価では,疼痛強度は夜間時痛3/10となり,PCS-6においても初期評価時の11/24点から7/24点に改善した.身体知覚異常のFreKAQは6/36点にまで減少し,TPDにおいても改善が認められた.また,ADOCの満足度も初期評価の6/25点から21/25点と大幅に改善がみられた.
【考察】 TKA術後に目標共有と触圧覚識別課題を併用した作業療法を実施した結果,各種評価とともに疼痛強度にも良好な改善を認めた.特に本症例の夜間時痛の変化率は57%と,整形外科的手術後の疼痛強度のMCID指標を満たしており(Sloman, 2006),臨床介入による効果といえるだろう.目標共有を取り入れた作業療法介入は,破局的思考の改善に効果的であることが報告されており(平賀,2016),本症例においても,PCS-6で改善が得られたことから先行研究を支持する結果ではないかと考えられる.また,触圧覚識別課題により,患部の識別正答率が向上し,FreKAQ やTPDが改善した.身体知覚機能の低下は疼痛強度の増悪に関与することが報告されており(Gilpin,2014),今回本症例に触圧覚識別課題を用いたことで,身体知覚が適正化された結果,NRSの良好な改善が得られたのではないかと考えられる.本症例の結果から,TKA後には複合的な評価に基づき,評価結果から適切な治療介入を組み合わせることが術後痛の遷延化予防に有用ではないかと思われる.