第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-9-1] ポスター:運動器疾患 9ローラー損傷による重度両手外傷症例に対するCOPMを用いた作業療法~作業遂行に関する目標設定が実用手の獲得につながった 1 例~

佐橋 郁美1新見 昌央2田口 健介1樋口 謙次1安保 雅博2 (1東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科,2東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

【緒言】広範囲なローラー損傷は組織欠損によって身体機能障害が残存し,その治療は難渋することが多い(吉田ら,2002).今回,ローラー損傷による重度両手外傷症例に対して,面接によって症例の問題がある作業遂行を特定するカナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure,以下COPM)を用いて作業遂行へアプローチを実施した.7ヵ月間の治療により,症例にとって重要な作業遂行が可能となり,実用手を獲得したため報告する.
【症例】70代の男性.金属加工会社を経営.仕事中にローラーで受傷し,右示指切断,左手関節開放脱臼骨折(AO分類:C3),左環指中手骨骨折の診断となった.同日に右示指再接合術(指動脈,尺側指神経のみ縫合),左手関節開放脱臼骨折に対する創外固定術を施行し,受傷6日後に左手関節に対して二期的に観血的整復固定術を施行した.受傷7日後に作業療法が開始した.左環指中手骨骨折はバディバンド装着してROM訓練開始,右示指は術後6週間,左手関節は術後3週間の固定後からROM訓練を開始した.なお,発表に関して本人の同意を得た.
【初期評価(受傷7日後)】右手指ROM:測定不能.左手指ROM(単位:°):示指TAM30,中指2,環指58,小指32.感覚:右示指PIP関節より遠位は防御知覚脱失.左手指MP関節より遠位は防御知覚低下.BI:55/100点.Quick DASH:Disability/Symptom 88.6,Work100.
【作業療法計画】症例は重度両手外傷によるADL障害が問題となった.また右示指の機能損失や左手関節内骨折のために将来的に機能障害が残ることが予測された.そこで入院期間では手術直後からの急性期治療として身体機能改善を優先し,外来では社会復帰を目指して作業遂行に焦点を当てたアプローチを計画した.
【経過】〔入院治療期〕長期目標を入院中ADL自立,短期目標を左手指の腱癒着予防と右手指の二次的拘縮予防として,ROM訓練,腱滑走訓練を実施した.〔外来治療期(受傷43日後より)〕作業遂行の目標設定を行うためにCOPMを測定し, COPM score(遂行度/満足度)は「食事」が6/5,「更衣」が6/4,「移動」が4/2,「買い物」が4/3,「仕事」が2/1であった.COPMによって症例が認識する問題点が手指のROM制限からなる把握困難であることを共有し,短期目標を「左手指・手関節ROMの改善」,「両手でのセルフケア自立」,「代償手段を用いた作業遂行」に再設定した.左手指ROM拡大のためにDynamic Splintを作製した.右示指には屈曲制限を認めたが,代償手段として提案した屈曲位保持ループ型Splintを積極的に使用して指腹つまみが可能となった.
【最終評価(受傷7カ月後)】右手指ROM:示指TAM94. 左手指ROM:示指TAM83,中指164,環指184,小指176.左手関節ROM:掌屈40,背屈40,回内60,回外45.感覚:右示指橈側は防御知覚低下,尺側は防御知覚脱失.握力:右20㎏,左10㎏. Quick DASH:Disability/Symptom 29.5,Work 43.7点.COPM score:「食事」は7/8,「更衣」は8/9,「移動」は10/10,「買い物」は8/8,「仕事」は6/6に改善し,実用的な手の使用が可能となった.
【考察】本症例は治療開始時より右示指や左手関節の機能障害残存が予測されたため,作業遂行へのアプローチを計画した.COPMを用いたことで症例と合意した目標設定がなされ,主体性や治療意欲を高めたと考えられる.その結果,手指機能障害は残存したが,症例にとって重要な作業遂行が代償手段を利用して可能となり,実用手の獲得につながった.したがって作業遂行へのアプローチは,機能障害残存が予測される重度手外傷症例に対する有効な治療選択の一つになると考えられた.