第56回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

Sat. Sep 17, 2022 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PD-9-3] ポスター:運動器疾患 9橈骨遠位端骨折の作業療法介入と評価の傾向について~過去 5 年間の文献レビュー~

井上 由貴1,2笹田 哲3 (1神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科博士前期課程,2独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院中央リハビリテーション部,3神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【はじめに】
 橈骨遠位端骨折の作業療法は身体機能に着目した介入が中心だったが,近年では作業療法に焦点を当てた介入が注目されており,上肢整形外科領域の実践報告は散見されつつある.先行研究では対象者は,自身で作業上の問題点を特定し一人で解決が出来るようになることを望んでいると報告されており,作業に焦点を当てた介入の必要性を示唆している.また,上肢整形外科疾患に対して作業に焦点を当てた介入の有効性を占めあれているが,報告の多くは心身機能に着目している現状である.そして,橈骨遠位端骨折に限局して調査した報告は少なく,どのような評価・介入が行われているか定かではない.従って,本研究の目的は,我が国の橈骨遠位端骨折の作業療法における,介入内容と評価項目を調査し,傾向や課題を考察することとした.
【方法】
 文献検索は,医学中央雑誌Web Verを用いた.検索式は「作業療法」and「橈骨遠位端骨折」OR「ハンドセラピーorハンドセラピィ」and「橈骨遠位端骨折」として,過去5年間を調査した(最終検索日:2021年11月27日).除外基準は総説,会議録,作業療法分野外の論文(解剖学的な基礎研究論文),既往に脳梗塞・脳性麻痺等何らかしらの上肢機能障害を生じている症例,合併損傷や下肢骨折を含む論文・理学療法・言語聴覚療法を併用している論文,目的が手術基材の検討やレントゲン・超音波画像診断が主体となるものとした.そして,適合論文の中から介入内容の抽出と評価項目の抽出を行った.
【結果】
 適合論文は48/82編で,介入内容の抽出が可能だった論文は31編,評価項目の抽出が可能だった論文は48編だった.介入の具体的内容は,身体機能訓練が96%を占め,次に外固定やスプリントが61%だった.他指導を含めた日常生活動作(以下,ADL)・手段的日常生活動作(以下,IADL)は51%と多く,指導も含めた物理療法は41%だった.一方で課題指向型訓練は3%と低く活動や参加に焦点を当てた報告は無かった.評価内容は,身体機能の評価を調査している論文は88%で,次に患者報告アウトカムを用いた評価が71%と多かったが,機能的自立度評価法等を用いたやIADLの評価は8%と低かった.人間作業モデル(以下,MOHO)等の作業に焦点を当てた評価も4%と低い傾向だった.
【考察】
 本研究の結果から,身体機能への評価と介入が半数以上を占め,作業に焦点をあてた研究は少ないことが明らかとなった.これは先行研究と同様の結果であり,橈骨遠位端骨折においても心身機能に着目した介入が多い結果となった.今後の課題として,橈骨遠位端骨折領域においても,心身機能中心ではなく対象者中心の作業療法の展開も必要であると推察する.Che Daud AZら(2016)は整形外科疾患に対して治療的な訓練と作業に焦点を当てた介入を行なった結果,治療のみと比較して対象者の手の機能を回復させることができたと報告している.先行研究と同様に,作業に焦点を当てた介入や研究を行うことで,対象者中心の作業療法の展開が可能であり,更に有効性も検証することが可能と考える.