第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-9-4] ポスター:運動器疾患 9橈骨遠位端骨折における年齢および握力とDASHの傾向と特徴

野島 美希1奥村 修也2工藤 文孝3髙山 拓人4 (1東大和病院リハビリテーション科,2常葉大学保健医療学部,3東大和病院整形外科,4笛吹中央病院整形外科)

【はじめに】
橈骨遠位端骨折の治療経過でADL能力獲得の個人差は少なくない.本研究はADL能力向上に年齢と握力が与える影響について,DASH Disability/symptom(以下DASH)とその下位項目の傾向や特徴について検討した.
【対象と方法】
 対象は2011年4月‐2021年10月に当院で手術加療後,作業療法の指示がされた95例95手である.年齢は65歳を境に2群に分けた.内訳は65歳未満の青壮年者群(以下Y群)37例37手,65歳以上の高齢者群(以下E群)58例58手である.性別(男/女)はY群11/26,E群8/50,平均年齢はY群50.8歳,E群76.2歳,骨折型はAO分類でY群A2;5手・A3;5手・B3;7手・C1;5手・C2;7手・C3;8手,E群A2;6手・A3;9手・B2;2手・B3;4手・C1;8手・C2;13手・C3;16手であった.方法は各群の握力健側比の平均値を基準(以下握力基準値)にして,各群を2つに分け,術後3か月時のDASHへの握力の影響を検討した.また,下位項目で「中等度困難」「かなり困難」「できなかった」を実用性の低下(以下困難項目)と判断し,各群の上位5項目を抽出した.統計学的評価はWelchの検定を用い有意水準は(p<)5%とした.症例には研究の趣旨と個人情報の守秘を説明し同意を得た.
【結果】
 握力健側比平均はY群72.3%・E群69.0%,DASHはY群平均15.2点・E群16.3点でそれぞれ有意差を認めなかった.
 Y群の握力基準値以上は20例・未満は17例で,握力基準値以上のDASHは14.2点・未満は16.4点,E群の握力基準値以上は30例・未満は28例で握力基準値以上のDASHは15.0点・未満は17.6点で,両群とも握力基準値で有意差はなかった.
 Y群の困難項目の上位5項目は1)きつめのビンのフタを開ける,18)衝撃のかかるレクリエーション活動,19)腕を自由に動かすレクリエーション活動,22)社会生活の妨げ,30)障害のための自信喪失・使いづらさ(以上項目内容略)であった.これらに1項目以上該当したのは握力基準値以上では13例:65.0%・未満では11例:64.7%で有意差はなかった.E群では1)きつめのビンのフタを開ける,11)5kg以上の物を運ぶ,12)頭上の電球交換,18)衝撃のかかるレクリエーション活動,30)障害のための自信喪失・使いづらさであった.これらに1項目以上該当したのは,握力基準値以上では14例:46.7%・未満では14例:50.0%で有意差はなかった.
 全体をみると年齢分類・握力分類でDASH・困難項目に有意な差を認めなかった.
 両群の困難項目の上位5項目で共通したのは1)18)30)の3項目であった.
【考察】
 阿部(2005)らは橈骨遠位端骨折のDASHへの影響因子を握力低下・高齢化,Wilcke(2007)らはDASHと握力は相関するとしている.しかし,本研究では年齢・握力からの影響を認めなかった.
 高崎(2016)らは,青壮年者と高齢者では日常生活で手の使用の程度が異なるとしている.本研究では,困難項目の上位5項目の中で3項目が共通したが,Y群では19)腕を自由に動かすレクリエーション,22)社会生活の妨げ,E群では11)5kg以上の物を運ぶ,12)頭上の電球交換となっており,高齢者の方がどちらかというと具体的な内容の項目であった.
 患者の満足度を向上させるには,両群で認めた3つの困難項目は世代に関係なく重点確認項目として,また残りの項目については,世代を考慮した生活様式や生活動作の詳細な確認と具体的な動作指導も行わなければならないと考えた.