第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-9-5] ポスター:運動器疾患 9橈骨遠位端骨折術後患者の握力と可動域の関係性

佐藤 潤一1塚本 知夏1 (1社会医療法人愛宣会 ひたち医療センターリハビリテーション療法科)

【はじめに】
橈骨遠位端骨折後のリハビリテーション介入において,可動域改善に伴い日常生活上での患肢使用頻度の向上,筋力向上が期待できる.そのため,骨癒合の状態をみながら早期に筋力強化訓練を実施することが必要である.一方,術後早期からの積極的な患側上肢の使用は疼痛や炎症症状の増悪も考えられ,治療期間や治療成績に影響がある.そこで,手関節可動域改善とともに筋力が向上するという報告はあるが,術後患者の運動方向の違いによる筋力への関係を報告されているものは少ない.
【目的】
手関節掌屈・背屈での運動方向の違いにより術後8週時点での握力に関係があるのかを調査し,術後リハビリプログラムを立案するために明らかにすること.
【方法】
対象は2020年1月~2021年12月までに当院にて掌側ロッキングプレート(以下VLP)を施行し,作業療法介入後8週まで経過が追えた症例40例の中で斎藤分類の関節内骨折に分類される22例22手 とした.全症例,術翌日より作業療法開始となった.内訳は年齢75.6±8.28歳,男性2例,女性20例であった.受傷前に患側の著明な可動域制限,筋力低下を認めている症例は除外した.対象となった症例には本研究の目的,方法を説明し同意を得た.VLP後8週時点での患側の可動域(掌屈・背屈)と握力を調査した.握力は2回測定行い最大値を求めた.統計処理にはSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした.
【結果】
術後8週時点での可動域の平均は掌屈61.8°(健患比77.2%),背屈60.5°(健患比75.6%)であった.握力と掌屈は,r=0.54(p=0.01)であり中等度の相関を認めた.握力と背屈は,r=-0.23(p=0.2)であり弱い相関を認めたが有意差はなかった.
【考察】
握力と掌屈可動域に正の相関が認められたことより,前腕伸筋群の伸張性向上が握力向上に関与していることが示唆された.手関節伸筋の収縮力は把握効果と比例しているといわれており,強く把握するには屈筋群に拮抗する伸筋筋力が必要になる.臨床上では,把握動作時に屈筋群の筋力に拮抗できなく,手関節掌屈位に偏位していくことがみられる.最大握力が発揮できる肢位は軽度背屈位であることより,早期に掌屈可動域を確保することが可能であれば,握力の向上を得られ,治療期間の短縮,患者の満足度の向上につながることが考えられた.また屈筋群は伸筋群と比較し筋重量,横断面積,筋繊維総数が優れている.そのため,屈筋群が筋力低下を呈しても伸筋群に拮抗できうる筋力が維持されていたのではないかと考える.
本研究の限界としては,8週時点での握力と可動域の相関を調査する横断的研究である為,因果関係は不明であることが挙げられる.