第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-1] ポスター:神経難病 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-1-1] ポスター:神経難病 1日常生活の振り返りにより良好な家族関係を再獲得できた視神経脊髄炎患者の作業療法報告

大八木 陽女1阿瀬 寛幸1北原 エリ子1藤原 俊之2,3 (1順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室,2順天堂医学部附属順天堂医院リハビリテーション科,3順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】視神経脊髄炎(以下NMO)は進行性疾患であり,徐々にADLが低下し家族の介助量が増加していく.本症例はNMOの進行により,家族の介助量と負担が増加していることに気づかず,家族関係が破綻しかかっていた.入院中に作業療法を実施し,自宅生活での家族の負担に気づいたことで,家族との関係を改善した一例を経験したため報告する.本発表に際し,最大限の倫理的配慮を行い当院倫理委員会の承諾を得ている.
【事例紹介】50歳台男性.9年前より下肢のしびれや動かしづらさを認めNMOの診断となった.5年前から下肢の脱力により車椅子での生活となり,今回は両下肢,左上肢,体幹の脱力を認め加療目的で入院となった.入院前は妻と大学生の息子2人とマンションにて生活していた.車椅子への移乗,排泄,入浴に加え,更衣やおむつ交換の介助により家族の負担が多く,妻は介護のストレスにより20kgの体重増加を認め,息子とは仲たがいしていた.家族は症例に対し「自宅で見続けることはできない」と転院を希望していた.自宅で使用していた福祉用具は電動車椅子のみで,寝具はソファーを使用.身体障害者手帳1級を取得されていた.
【介入経過】当初症例は「立てるようになりたい.少しでも一人で動けるようになりたい」と希望していた.しかし,起居や座位保持,移乗は重介助であり,Barthel Index 15点であった.生活面では「困っていることはない」との発言を認めたが,一人で行える活動や家族の介助が必要な活動がどの程度かの理解は曖昧であり,家族の負担が多いことに気づいていなかった.MMT(右/左)は,肩関節屈曲4/3,肩関節外転4/3,肘関節屈曲4/2,肘関節伸展4/2,股関節屈曲1/0,膝関節伸展0/0,足関節背屈1/0と下肢優位に筋力低下を認めた.
まず,自宅で行っていた活動を1つずつ再現していき,食事摂取やパソコン操作,車椅子駆動は一人で行えること,車椅子移乗や排泄,入浴は介助が必要なことを共有した.車椅子移乗は,L字柵とスライディングボードを使用することで介助量が軽減し動作が可能となった.尿失禁によるおむつ交換,入浴動作で家族の負担が多かったことに症例自身が気づき,負担をかけないような生活が行いたいと意識するようになった.
そこで,福祉用具は購入の補助があること,バルーンの管理や入浴は訪問看護が利用出来ることを症例及びソーシャルワーカーと共有した.福祉用具や人的サービスへの受け入れは良好であり,福祉用具は症例自身がご家族と相談し市への申請と購入の準備を進めた.
血漿交換療法後,筋力は入院当初と変わらずBarthel Index 25点で第23病日に退院となった.電動ベッドをレンタルし,バルーンの管理と入浴介助は訪問看護にて週2回導入することとなった.退院後には家族で外食や買い物へ行くことができ,余暇活動も行えるようになった.
【考察】本症例は入院当初,家族の介助量や負担には気づかず関係が破綻寸前となり,自宅での生活が継続出来ない危機があった. 今回は症例に生活環境を聴取しながら動作を再現したことで,家族の介助量が増加していることや負担が生じていたことに症例自身が気づき,生活を再考するきっかけとなった.生活に必要な福祉機器や人的サービス,家族の介助方法を症例が主体となって家族と関わっていくことで,家族を思いやりながら介助を受けることができ,良好な家族関係を築くことへ繋がった.ADLに介助が必要な状況でも,生活に対して主体的に向き合うことで,介助する家族とともに生活の質を改善することができたと考えられた.