第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-1] ポスター:神経難病 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-1-2] ポスター:神経難病 1神経難病のQOL改善における一考察~ ALS 患者に対して SEQoL を用いた経験~

森脇 繁登1 (1島根大学医学部附属病院リハビリテーション部)

【はじめに】
筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)は,進行とともに症状が悪化し,他者に依存した生活を長期的に余儀なくされてしまう.ALS患者のQOLは,身体や精神,感情,生活機能の低下が影響しており,リハビリテーション専門職は運動,福祉機器,AAC技術等の具体的な介入を行うと同時に,QOLを維持するための調整が重要である(Ammarah, 2017).今回,ALS患者のQOLに着目し,作業療法を実施した結果,QOL改善に一定の効果を得た.その経過について考察を踏まえ報告する.なお,報告にあたり事例本人に説明を行い書面にて同意を得た.
【症例紹介・初回入院時評価(診断日+487日)】
50歳代女性.20XX年にALSと診断.診断後は,在宅にて療養生活を送っていた.家族構成は夫と2人暮らし.自宅では家事全般が役割であった.当院には,薬物療法,リハビリテーション,レスパイトを目的に計6回入院した.初回入院時,ALSFRS-R 39点.QOL評価は,個人の包括的QOL評価法であるSEQoLを用いて毎回退院前に行った.QOL構成因子は,「家族」「趣味」「食事」「人間関係」「病気」の5因子であり,初回入院時は77.23点であった.作業療法は,筋力の維持を目的に運動療法を積極的に実施.自宅での行いやすい調理動作方法や自助具を提供.自主トレーニングも指導し運動機能維持を図った.
【介入計画】
病状の進行を確認しながら,運動負荷量に留意した運動療法を行うこと,さらにQOL因子に着目し日常生活場面での動作指導や福祉機器等の導入,意思伝達装置(以下,伝達装置)の練習を行った.
【経過・最終入院時評価】
入院2回目(診断日+670日);ALSFRS-R35点,SEQoL82.1点,上肢筋力の低下を認め,上肢挙上動作が困難となった.四肢筋力の維持を目的とした運動療法に加えて,円滑な意思伝達を目的に文字盤の練習を開始した.さらに,排泄と家事の生活動作方法を指導した.入院3回目(診断日+783日);ALSFRS-R32点,SEQoL85.6点,前回入院時同様に運動療法を実施しながら,伝達装置の操作練習も開始.練習は1回20 分5日間実施した.入院4回目(診断日+866日);ALSFRS-R22点,SEQoL73.6点,趣味が継続できるよう鉛筆ホルダーを作成した.伝達装置の練習は1回20 分7日間実施した.さらに,生活で伝達装置活用できるように詳細な生活スケジュール等を聴取した.本人了承のもとQOL要因について在宅支援チームと共有した.入院5回目(診断日+954日);ALSFRSR17点,SEQoL77.6点,伝達装置の練習を1回20 分6日間実施した.伝達装置の日常生活場面での活用を想定し,操作環境について在宅支援チームへ指導した.入院6回目(診断日+1034日);ALSFRS-R6点,SEQoL未実施,病状の進行が顕著となり,涙を流しながら話をしていた.伝達装置を用いて傾聴するよう心がけた.SEQoL評価は現実と向き合うことから実施を控えた.
【考察】
進行性疾患であるALS患者に対して,QOLに着目し作業療法を実施した.本症例を通して,QOL因子を明確にした上で作業療法を行うことで,緩徐な進行期はQOL改善が期待できたが,急速な進行期はQOL改善は困難であると考えられた.具体的には,ALSFRS-R5点未満の減点であればQOL改善は期待できたが,ALSFRS-R10点以上の減点はQOL改善は困難であった.急速な進行期におけるQOL改善に向けた作業療法の在り方は,引き続き議論していく必要があると考えた.