[PE-2-5] ポスター:神経難病 2アイトラッカーを用いたパーキンソン病患者の模擬的な食事場面におけるサッケードと固視の計測
【はじめに】
パーキンソン病(以下PD)とは,中脳の黒質の変性によってドーパミンの生成が低下し様々な障害をおこす進行性の神経変性疾患であり,近年,前頭葉機能障害や自律神経障害,眼球運動障害も見られるという報告がある.PDでは眼球運動障害として,健常者と比較してサッケードの移動範囲が狭いことや,認知課題中の固視時間が健常者よりも長いことが報告されている.また動作中の眼球運動では,PD患者が廊下に置かれた障害物を迂回し避けながら歩く課題において,コントロール群よりも障害物を注視する時間が長いことが報告されている.しかし,歩行以外の日常生活動作(以下,ADL)におけるPD患者の眼球運動についての研究報告は見られない.食事は食べ物の選択を行うことから視覚依存性が高い可能性があると考えられる.そこで本研究ではアイトラッカーを用いてPD患者の模擬的な食事場面における眼球運動障害の有無を明らかにすることとした.
【方法】
対象者はPD患者3名(73歳女性Hoehn & Yahr3,78歳女性Hoehn & Yahr4,77歳男性Hoehn & Yahr3),健常者2名(66歳女性,67歳男性)で,5名ともに認知機能の低下がないものとした.一般的な情報として,年齢, 性別,既往歴,利き手の聴収,視力,認知機能検査(MoCA-J)に加えて,PD患者には重症度と現病歴を聴収した.模擬的な食事場面として机を前にした椅子座位で,机の上の皿に入ったおかきとピーナッツ(10個)を口元に運び,隣にある皿に戻すという課題を行った(新型コロナ感染予防のため食べなかった).課題中の眼球運動をサンプリングレート50Hzのアイトラッカー(Tobii Pro glass2,Tobii社製)にて計測した.データ分析にはTobiiⅠ-VT Fixation Filter(Tobii社製)を使用し,得られた眼球運動のデータを固視とサッケードに分類した.固視とサッケードの基準として閾値を30°/sec.と設定し,閾値以下の角速度を持つ眼球運動を固視,閾値以上の角速度を持つ眼球運動をサッケードと定義した. 倫理的配慮について,本研究は森ノ宮医療大学学術研究院会で承認され実施した.(承認番号:2020-70)
【結果】
固視合計時間については,PD患者の方が健常者と比較して固視合計時間が短くなる傾向が見られた.サッケードの合計距離については,PD患者の方が健常者と比較して,サッケードの合計距離が短くなる傾向が見られた.
【考察】
固視合計時間とサッケードの合計距離ともにPD患者の方が健常者と比較して短くなる傾向が見られた.前頭葉の眼球運動領域である前頭眼野と補足眼野は大脳基底核の尾状核と結びつき眼球運動に関与している.またPDでは前頭葉機能の低下やドーパミンが欠乏することにより基底核と繋がりのある,中脳の上丘に過剰な抑制がかかることにより,注視する際の眼球運動が妨げられ,狭い範囲しか見渡せなくなることが報告されている.以上のことから対象物への視線の移動が健常者よりも早く行われたのではないかと考える.サッケードの合計距離について,PDではすくみやモーターブロックなど運動開始時の障害や反復運動時に運動範囲が徐々に小さくなる傾向があることが知られている.本研究結果においてもPD患者の方が健常者よりもサッケード合計距離が短くなる傾向が見られたのは,眼球運動がこれらの影響を受けていると考える.PD患者ではADLにおいて代償的に外的なcueを用いた運動が行われることが多い.しかし,眼球運動障害や眼疾患が健常者よりも多いという報告もあり,ADL動作中の眼球運動特性については更に調査する必要があると考える.
パーキンソン病(以下PD)とは,中脳の黒質の変性によってドーパミンの生成が低下し様々な障害をおこす進行性の神経変性疾患であり,近年,前頭葉機能障害や自律神経障害,眼球運動障害も見られるという報告がある.PDでは眼球運動障害として,健常者と比較してサッケードの移動範囲が狭いことや,認知課題中の固視時間が健常者よりも長いことが報告されている.また動作中の眼球運動では,PD患者が廊下に置かれた障害物を迂回し避けながら歩く課題において,コントロール群よりも障害物を注視する時間が長いことが報告されている.しかし,歩行以外の日常生活動作(以下,ADL)におけるPD患者の眼球運動についての研究報告は見られない.食事は食べ物の選択を行うことから視覚依存性が高い可能性があると考えられる.そこで本研究ではアイトラッカーを用いてPD患者の模擬的な食事場面における眼球運動障害の有無を明らかにすることとした.
【方法】
対象者はPD患者3名(73歳女性Hoehn & Yahr3,78歳女性Hoehn & Yahr4,77歳男性Hoehn & Yahr3),健常者2名(66歳女性,67歳男性)で,5名ともに認知機能の低下がないものとした.一般的な情報として,年齢, 性別,既往歴,利き手の聴収,視力,認知機能検査(MoCA-J)に加えて,PD患者には重症度と現病歴を聴収した.模擬的な食事場面として机を前にした椅子座位で,机の上の皿に入ったおかきとピーナッツ(10個)を口元に運び,隣にある皿に戻すという課題を行った(新型コロナ感染予防のため食べなかった).課題中の眼球運動をサンプリングレート50Hzのアイトラッカー(Tobii Pro glass2,Tobii社製)にて計測した.データ分析にはTobiiⅠ-VT Fixation Filter(Tobii社製)を使用し,得られた眼球運動のデータを固視とサッケードに分類した.固視とサッケードの基準として閾値を30°/sec.と設定し,閾値以下の角速度を持つ眼球運動を固視,閾値以上の角速度を持つ眼球運動をサッケードと定義した. 倫理的配慮について,本研究は森ノ宮医療大学学術研究院会で承認され実施した.(承認番号:2020-70)
【結果】
固視合計時間については,PD患者の方が健常者と比較して固視合計時間が短くなる傾向が見られた.サッケードの合計距離については,PD患者の方が健常者と比較して,サッケードの合計距離が短くなる傾向が見られた.
【考察】
固視合計時間とサッケードの合計距離ともにPD患者の方が健常者と比較して短くなる傾向が見られた.前頭葉の眼球運動領域である前頭眼野と補足眼野は大脳基底核の尾状核と結びつき眼球運動に関与している.またPDでは前頭葉機能の低下やドーパミンが欠乏することにより基底核と繋がりのある,中脳の上丘に過剰な抑制がかかることにより,注視する際の眼球運動が妨げられ,狭い範囲しか見渡せなくなることが報告されている.以上のことから対象物への視線の移動が健常者よりも早く行われたのではないかと考える.サッケードの合計距離について,PDではすくみやモーターブロックなど運動開始時の障害や反復運動時に運動範囲が徐々に小さくなる傾向があることが知られている.本研究結果においてもPD患者の方が健常者よりもサッケード合計距離が短くなる傾向が見られたのは,眼球運動がこれらの影響を受けていると考える.PD患者ではADLにおいて代償的に外的なcueを用いた運動が行われることが多い.しかし,眼球運動障害や眼疾患が健常者よりも多いという報告もあり,ADL動作中の眼球運動特性については更に調査する必要があると考える.