第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-3] ポスター:神経難病 3

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-3-1] ポスター:神経難病 3パーキンソン病における運動症状と前頭葉機能との関連性―BADSを用いた評価―

木村 明博1今村 駿介1 (1医療法人社団 研仁会 北海道脳神経外科記念病院リハビリテーション部 作業療法科)

【序論】パーキンソン病(PD)は安静時振戦,無動,筋固縮,姿勢反射障害を4大兆候とする錐体外路性の神経性疾患である.非運動症状として,特に認知機能障害はPDの病初期にも比較的高率にみられるとされており,最も高度に障害されると言われているのが前頭葉機能に関連する遂行機能である.機能評価にWisconsin Card Sorting Test(WCST)やTrail Making Test(TMT)前頭葉機能評価バッテリー(FAB)を用いられることが多いが,Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS)を用いたPD症例への作業療法経過報告は少ない印象を受ける.今回,PD症例の作業療法経過で用いた認知機能検査でBADSの検査結果のみが,他の認知機能検査と比較しても明らかな改善がみられず,運動機能も転倒頻度が軽減し在宅復帰となったが,すくみ足症状や姿勢反射障害といった運動症状も明確な軽減に至らなかった臨床経験を得た.担当したPD症例の認知機能と運動機能の経過を考察を加えて報告する.尚,報告にあたり本症例より同意を得られている.   
【症例紹介】70歳代男性.歩行の困難さとバランスの低下を主訴に当院を受診されPDの診断を受ける.この数年は,杖を用いても年間20回以上は屋内外に関係なく転倒していた.当院を受診される2週間前にも自宅玄関ドアの開口と同時に前方へ倒れ込み,顔面を強打されて右眼瞼部の切創を生じ近医にて縫合処置を受けていた.【OT評価】Hoehn & Yahr重症度分類3で,後方重心性が強くFunctional Balance Scale(FBS)31/56点であり歩行開始時には,すくみ足症状が顕著でTimed Up&GO test(TUG)29秒32であった.認知機能面はJapanese version of Moca(Moca‐J)22/30点.MMSE28/30点.TMT Aは148秒でTMT Bは遂行できなかった.WCST48刺激中の総エラー数が31個,達成カテゴリー(CA)は1個であった.BADS14/24点で機能障害区分に近位な境界域となった.リハビリテーションへのモチベーションが高く,早く歩けるようになって自宅へ帰りたいと初回面接時に伝えてきた.【OT経過】後方重心性と歩行時の体幹屈曲姿勢に対しては輪移動など立位での上肢活動を通して介入した.すくみ足症状へは歩行開始時に杖をスタンピングすることを病棟看護師と情報共有し行った.認知機能面へはセット変換課題や注意課題などを中心に実施した.当院入院より3カ月後に自宅退院となった.自宅退院前の再評価結果はFBS42/56点,TUG24秒59と若干の向上がみられたが,入院加療中に3度の転倒があり,すくみ足症状と後方重心性はわずかな軽減に留まった.認知機能面はBADSにおいては14/24点と初期評価時と著変なく,機能障害区分に近位な境界域を示した.その他の検査はMoca‐J 28/30点.MMSE24/30点.TMT‐A99秒,TMT B217秒.WCST48刺激中の総エラー数は16個でCA5個と向上が認められた.
【考察】この介入経過から,PDのすくみ足症状や姿勢反射障害などの運動症状が,前頭葉の機能低下に位置付けられており,その評価としてBADSが他の前頭葉機能検査よりも,より適応が高いことを示唆されるのではないだろうか.前頭葉機能低下≒すくみ足症状や姿勢反射障害の出現と仮定するならば,PD症例に対しOT開始時よりBADSなど前頭葉機能に関して定期評価を行うことで,服薬調整などのPDの治療に対する医師への情報提供としては有益な情報となるかもしれない.そこからPD症例が主たる生活者としての生活能力や身体機能・認知機能の向上に向けた個別性のある作業療法の提供につなげていきたい.