第56回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-3] ポスター:神経難病 3

Sat. Sep 17, 2022 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (イベントホール)

[PE-3-2] ポスター:神経難病 3高次脳機能が低下しているパーキンソン病患者に対する認知行動療法の効果の考察

吉田 純平1松下 太一1亀久保 江士1 (1北斗わかば病院リハビリテーション部)

【はじめに】認知行動療法(以下CBT)は様々な精神障害に対してエビデンスのある治療法でありパーキンソン病(以下PD)に対するCBTの効果も徐々に報告がされてきている.しかし,いずれも高次脳機能が低下している症例への効果はあまり報告されていない.今回高次脳機能が低下しているPD患者に対して認知再構成法,マインドフルネス,行動活性化法の3つのCBTを実施しそれぞれの効果について考察する.
【倫理的配慮】本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】70代.PD経過11年の女性.夫と死別後約3ヶ月後に睡眠薬200錠を飲み自殺を図り救急病院に搬送.その後当院に療養目的で入院.ヤール重症度分類は4.
【作業療法評価】高次脳機能:MMSE26/30,FAB11/18, TMT測定中止.(衝動性の亢進,記憶,注意,言語機能の低下).精神機能:GDS29/30,GSES1/16点. 行動観察評価から自己効力感,自己肯定感が低く常に他人の評価を意識して生活している.希死念慮もあり,「早く死んでしまいたい」との発言も聞かれている.認知のゆがみとしては全か無かの思考,過度の一般化が特に強い.日中の活動性:失敗を怖がり回避行動が起きるため日中の活動性も低くベッドで寝ていることが多い.家族関係:嫁姑関係で確執が生じている.
【作業療法目標】長期目標:希死念慮に襲われることなく生活できるようになること.短期目標:自己肯定感及び自己効力感の向上,日中の活動性の向上,家族との関係性の改善.
【経過】ラポール形成後から以下を実施.
認知再構成法(入院から約2年後)
7つのコラム法を1回30分,週3回のセッションで15週実施した.小字症と目の影響により紙に書きづらかったため会話のやり取りのみで実施した.ホームワークも紙を見ながら自分の頭の中で振り返る形で実施した. 振り返りの場面では自己のゆがみに気付けるが,一人で行なうときは気付けず,日常生活の行動に変化はなかった.
マインドフルネスでの介入(入院から2年8ヶ月後)
1回5~10分,週5回のセッションを4週間実施した.注意の転換ができず介入が成立しなかったため4週で終了した.
行動活性化法での介入(入院から3年2ヶ月後)
週間活動記録表を用いて一日に行なっている作業と気分を具体化した.日中の大半は何もしておらず,その時間帯にメタ認知が働き不安が強くなるため,作業をする時間を増やした.作業は訓練内で行なうカラオケの曲探し,編み物,書字の練習,物語作り等であった.いくつかの作業をやる中で「家族へのお礼の手紙を書きたい」との発言が出てきた.
【最終評価】高次脳機能:MMSE23/30,FAB9/18,TMT測定中止(若干低下).精神機能:GDS24/30,GSES4/18.行動観察評価から自己効力感,自己肯定感共に改善.認知のゆがみは残存しているが,自分の認知のゆがみを自覚できた.希死念慮も減っている.日中の活動性:カラオケや編み物等の活動をするようになり日中の活動性が向上した.家族関係:家族へ手紙を出すことができた.
【考察】今回,高次脳機能の低下のあるPD患者に対して3つのCBTを行った.認知再構成法とマインドフルネスでは,思考から行動の変化を起こす方法であったが,高次脳機能の低下から思考の変化は難しく,行動の変化に繋がらなかったと考えた.一方,行動活性化法では行動の変化から本人が自分自身を理解する思考へと変化し,活動性の向上,自己効力感と自己肯定感の改善が図れた.この方法は行動から思考を変える方法であり,高次脳機能が低下している患者に対しても有効と考える.