第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-4] ポスター:神経難病 4

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-4-1] ポスター:神経難病 4大脳皮質基底核変性症によりネクタイ操作が困難となった1症例~肢節運動失行に対する視覚及び言語代償の効果~

高橋 幸規1花田 智仁1 (1松山リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】今回,肢節運動失行(以下LKA)の影響でネクタイ操作が困難となっていた症例に対し,視覚及び言語代償によりネクタイ操作が可能となったため報告する.なお,発表にあたり症例と当院倫理委員会の同意を得ている.
【症例紹介】症例は,X-2年に大脳皮質基底核変性症(以下CBD)を認めた50代男性である.脳画像所見は,左側頭葉脳萎縮及び右基底核に低吸収域がみられ,基底核,松果体,側脳室に圧的石灰化を認めた.初回面接時,「一人でネクタイを締めたい」との訴えが強く聞かれた.
【作業療法評価】神経学的評価は,FMA右上肢65点,左上肢66点,両上肢MMT5であり上肢麻痺症状を認めなかった.しかし,STEFは右上肢86点,左上肢91点であり物品操作に問題を認めた.感覚は,右上肢触覚7/10,痛覚8/10,深部感覚4/5.左上肢は感覚障害を認めなかった.神経心理学的評価は,MMSE30点.WAIS-IIIは,言語性IQ78,動作性IQ67であった.CATは,SDMT29.1%,3スパン62.5%,PAST2秒条件正答率22%であり,分配性・転導性注意力低下及び処理速度の遅延を認めた.WMS-Rは,言語性記憶86,視覚性記憶81,遅延再生84であった.失語は,SLTAにて認めなかった.失行は,SPTA手指模倣にて第Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ指輪が実施困難であった.ルリアのあごの手は手指屈曲のエラーを認めた.日常生活動作は,菊池らのLKA臨床症状として報告されているボタン操作,手袋操作,靴下の着衣にエラーを認めた.加えて,田川らのLKA評価法に準じたグーパー動作と指折り及び他指との対立動作が可能で,対象物を手で扱うことの困難さ確認してLKAと判断した.ネクタイ操作は,大剣を小剣に巻き付ける工程にてエラーを認め,保続により操作が困難となり次の工程へ移れなかった.また,鏡像の利用では工程のエラーに差を認めなかった.言語による工程説明は行え,ネクタイ着用場面と意味についても理解されていた.
【治療介入・経過】治療介入は,ネクタイ着用時の首にかけて締める工程と結ぶ工程を分けた.結ぶ工程では,情報の焦点化が円滑になるよう机上にネクタイを置き,大剣と小剣の合わせる位置や巻き付ける方向を視覚で確認しながら結んだ.また,巻き付ける方向や作成した輪へ大剣を通す工程を言語化するように促した.介入後2週間で机上にて結びが完成するようになり,輪の部分を首にかけて鏡像の利用にてネクタイを整えることができた.しかし,作業時間は2分35秒要した.
【結果】介入後3週間では,ネクタイを机上で結び,首にかけて締める方法を内言語化で行えるようになった.作業時間も1分40秒への短縮を認めた.神経学的評価及び神経心理学的評価の著明な変化は認めなかった.
【考察】本症例はCBDを発症し,LKAの影響でネクタイ操作が困難となっていたと考える.LKAは中心溝で挟んだ前後で分類され,後方型に関して視覚による代償効果があり,体性感覚障害を伴うことが多い.(河村,1990)本症例も体性感覚障害を伴った後方型であると判断し,ネクタイ操作の視覚代償を鏡像での実施よりも焦点化しやすいよう机上に置いて介入した.また,失語の影響がなく工程説明が可能であった事から言語を利用した.視覚情報を与えることで視覚から動作へ直接経路に働きかけ,動作喚起を促す.また,動作そのものを言語化して行為を遂行させることも有効である.(武田,1994)本症例も机上において視覚情報を焦点化することで動作への直接経路へ働きかけ,工程を言語化することで概念的知識の活性が図れたと考える.また,経過の中で内言語化されたネクタイ操作は視覚から動作への直接経路でネクタイ操作が可能となり,作業時間の短縮を認めたと考える.