第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-1-1] ポスター:がん 1急性期病院における悪性神経膠腫術後患者に対するOccupation Based Practiceの実践報告

黒崎 空1佐々木 秀一1田口 晴貴1軽部 敦子1神保 武則1 (1北里大学病院リハビリテーション部)

〔背景〕悪性神経膠腫は多彩な中枢神経症状と約1年という不良な生命予後が特徴の疾患である.当院の標準治療は開頭腫瘍摘出術と2ヶ月間の後療法で,並行してOTが実施される.また,神経膠腫患者は,比較的若年な働き盛り世代も多く,役割や生きがいなどの喪失感を経験するため,OTでは重要な作業に対する個別的な支援が重要である.我々は,悪性神経膠腫術後患者にAid for Decisionmaking in Occupation Choice(ADOC)を使用し,重要な作業を共有してOccupation Based Practice(OBP)を行うことで,退院後のQOL向上に繋がると考えた.本発表の目的は悪性神経膠腫術後患者にADOCを使用したOBPの実践報告を行い,急性期病院における作業療法介入方法の一助にすること.
〔介入方法〕本発表は当院倫理委員会による承認を得て実施した.当院の初発の悪性神経膠腫に対する治療の流れは,開頭腫瘍摘出術を施行し,約1週間後に病理診断が確定すると,入院にて約2ヶ月間の化学療法,放射線治療を行う.OTでは,後療法開始時にADOCによる目標共有を行いOBPを開始する.また,1ヶ月後に2度目のADOCを行い患者の疾患への受け止め方の変化を検討している.通常のOT評価に加え,作業機能障害(CAOD)とQOL(EQ-5D-5L)の評価を退院時,退院3ヶ月後に書面によるアンケートを行っている.
〔事例紹介〕事例1:30歳代の女性.診断名は神経膠芽腫.夫,娘と同居し家事役割がある.初期評価ではBr.Stage(BRS)Ⅵの右片麻痺と失行により箸操作が困難で,ADOCにて短期目標を食事,長期目標を炊事とし,物品操作練習などが行われた.ADOCの満足度は2であった.1ヶ月後,失行は残存するも箸操作は可能となり,炊事を目標に家事の実動作練習などが行われた.結果,失行は軽度残存したが家事に復帰し,退院3ヶ月後の炊事の満足度は4,CAODは39点,QOLのタリフ値は1.0と改善した.
事例2:50歳代の男性,診断名は神経膠芽腫.独居で,職業は塾の講師.初期評価ではBRSⅢの左片麻痺と注意障害によりADLに介助を要し,ADOCで排泄,更衣が目標となりADL練習が行われた.1ヶ月後,運動麻痺はBRSⅤに改善し,AD Lは監視レベルとなった.しかし転倒リスクは残存し,ADOCで屋内の移動が目標となり,OTでは屋内生活を見据えた動作練習が行われた.また,医療者の現職復帰困難という見解に反して事例は復職を希望しており,CAODは43点で特に作業周縁化が高値であった.結果,兄の家に退院し,仕事は一時的に再開したが,簡単な業務も行えず復職に至らなかった.退院3ヶ月後のADOCの満足度は2,CAODは58点と残存し,QOLのタリフ値は0.285と低値であった.
事例3:50歳代の女性,診断名は退形成性乏突起膠腫.仕事は接客・事務作業で,家事役割があった.初期評価は,前頭葉症状,失語を認めたがADLは自立し,ADOCで炊事,仕事を目標とし,高次脳機能練習中心に介入した.ADOCの満足度は1であった.1ヶ月後評価で前頭葉症状により現職復帰が困難な旨を共有すると,事例は社会と繋がるために別の形で働きたいと希望したため,目標を仕事従事に変更し,OTでは適した業務を探るために種々の作業の提供,地域資源の紹介を行った.症例は退院3ヶ月後,家事に復帰し,リハビリに通いながら作業所の利用を検討した.ADOCの満足度は2,CAODは54点,QOL効用値は0.624であった.
〔考察〕悪性神経膠腫患者へのOBPは患者の症状や疾患への受け止め方に対する目標や介入の適応に有益であった.しかし,重要な作業を実施できずQOLが低い症例も存在した.今後は入院中からの実動作実施機会の提供や地域との連携等,作業獲得のためのより入念な介入が求められる.