第56回日本作業療法学会

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がん

[PF-2] ポスター:がん 2

2022年9月16日(金) 14:00 〜 15:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-2-1] ポスター:がん 2悪性リンパ腫患者における化学療法開始後早期の手の知覚および機能の変化

五百川 和明1藤田 貴昭1吉田 静2茂木 由香2笠原 龍一2 (1福島県立医科大学保健科学部作業療法学科,2北福島医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】化学療法誘発性末梢神経障害(Chemotherapy-induced peripheral neuropathy; CIPN)は,がん化学療法後の一般的な副作用であり,患者の心身状態やADL,QOLに影響を与える.悪性リンパ腫などの造血器腫瘍患者で使用されるビンクリスチンは容量依存性の末梢神経障害を引き起こし,特に手指先端の異常感覚が現れやすい.しかしながら,化学療法の経過によって手の知覚や機能がどのように変化するかについては明らかにされていない.
【目的】本研究の目的は,悪性リンパ腫患者の手の知覚と機能について,特に化学療法開始後早期の変化について検討することである.
【方法】対象者は2018年11月1日から2021年10月30日の間に調査協力病院で悪性リンパ腫の診断を受け化学療法を受けた20歳以上の20名(67.4±8.5歳,女性11名)である.これら対象者の基本属性(年齢,性別,身長,体重,利き手,他)と医学的情報(診断名,化学療法治療薬・コース,既往歴,他)を収集し,化学療法開始前と化学療法第2クール開始前および化学療法第3クール開始前の3時点で,有害事象共通用語規準 (Common Terminology Criteria for Adverse Events v4.0),手の主観的しびれ感(Visual analogue scale),Semmes-Weinstein monofilament test (SWT),2点識別覚検査,Purdue Pegboard Test(PPT),握力,ピンチ力,上肢障害評価(Quick DASH)の結果を収集した.統計解析は,化学療法開始前のデータをベースラインとし,それ以降の時点の各計測データを反復測定一元配置分散分析やフリードマン検定等を用い検証した.本研究は本学および調査協力病院の倫理審査委員会の審査と承認の下,対象者の同意を得て実施した.
【結果】対象者の診断名は,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(12名),濾胞性リンパ腫(4名)等で,ほとんどの者がビンクリスチンを用いたR-CHOP療法を受けた.3時点での手の知覚および機能のデータにおいて,SWTやPPT,握力,ピンチ力,Quick DASHでは有意な変化を認めなかった.しかしながら,手の主観的しびれ感(p=.015),動的2点識別覚の右環指(p=.034),左示指(p=.008),左中指(p=.013),左環指(p=.012),および静的2点識別覚の右環指(p=.002),右小指(p=.010),左中指(p=.011),左小指(p=.018)で有意に悪化した.なお,動的および静的2点識別覚の結果のほとんどは6㎜以下であった.
【考察】本研究の結果から,悪性リンパ腫患者における化学療法第2クール実施までの影響として,手の知覚や機能は顕著に悪化しないことが示唆された.一方,手のしびれ感や,2点識別覚には有意な変化が生じていることから,その後も継続して化学療法を実施することで,手のしびれや2点識別覚がさらに悪化する可能性が考えられる.悪性リンパ腫患者の作業療法は,CIPN等の影響により手の機能や生活上の問題が生じた場合に開始されることが多い.しかしながら,患者の手の機能が良い状態にあっても,手のしびれや2点識別覚が各指別に悪化している可能性があり,作業療法ではこの点を踏まえ,化学療法開始早期から患者に関わり,CIPNの影響を予測した上で介入する必要があると考える.