第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-2] ポスター:がん 2

2022年9月16日(金) 14:00 〜 15:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-2-2] ポスター:がん 2人工肛門造設術前の意欲や不安がストーマケアの獲得に対する影響について

関根 典子1上田 宏明1田沼 志保1尾澤 政喜2薄木 健吾1 (1北里大学メディカルセンターリハビリテーションセンター,2北里大学メディカルセンター看護部)

【序論】
本邦において大腸がんは罹患率が高く,2018年の統計では1年間に15万人以上が診断を受けている(国立がん研究センター). 5年生存率も改善傾向であり,手術や補助的治療は進歩しているものの,人工肛門(以下ストーマ)の造設を余儀なくされる人は少なくない.当院では予定ストーマ造設患者に対し,術前に作業療法士が身体・認知・心理面の評価を行い,術後のストーマケアの獲得に関する目標をカンファレンスで多職種と情報共有し,円滑に指導が進むように連携を図っている.山本らは,ケア獲得を困難にさせる要因として75歳以上,ADL自立度の低下, 視力低下,理解力の低下,上肢麻痺,術後回復遅延,ストーマ合併症,悪性腫瘍が報告されているが,術前の意欲や不安,受容度の心理面がケア獲得に与える影響の報告は少ない.
【目的】
ストーマ造設患者の術前の身体機能と意欲・不安・受容度の心理的側面が術後のケア獲得に与える影響を明らかにすることを目的とする.発表に際して, 当院の倫理委員会の承認を得ている.
【方法】
対象者は2019年6月から2021年12月で,予定手術によりストーマ造設術を施行された60名とし,後方視的にカルテから以下のデータを収集した.項目は入院時のFIM,握力,Frontal Assessment Battery (以下FAB),Vitality Index(以下VI),及びストーマへの心理的不安と受容度の評価はVisual analogue scale(以下VAS)で評価した.また退院時時点での,便の破棄, およびストーマの装具交換の自立度を4段階(1,自立 2,見守りが必要 3,一部介助 4,全介助)で評価した. 統計解析は便の破棄, およびストーマの装具交換の自立度を従属変数とし, 各評価項目との単相関をSpearmanの相関係数を用いて求めた. 評価項目の欠損値については, 各項目の中央値を代入した.有意水準は5%以下とした.
【結果】
最終的に便の破棄と装具交換の評価を行った34名(男性25名,女性9名,平均年齢71±9歳)を解析した.9個の欠損値には中央値を代入した.
便破棄の自立度との相関はFAB(-0.56,p<0.01)握力右(-0.34,p=0.04) 握力左(-0.35,0.04) 空間認知(-0.58,p=<0.01) FIM運動項目(-0.39,p=0.02) FIM認知項目(-0.58,p<0.01) VI(-0.55,p<0.01)に認め,受容度(0.23, p=0.19)心理的不安(-0.01, p=0.95)は認めなかった. 装具交換の自立度との相関は,FAB(-0.53,p<0.01) 握力右(-0.33,p=0.05) 空間認知(-0.33,p=0.05) FIM運動項目(-0.38, p=0.03) FIM 認知項目(-0.53,p<0.01) VI(-0.52,p<0.01) で認め, 受容度(0.24,p=0.17) 心理的不安(0.04,p=0.83) 握力左(-0.28,p<0.11)で認めなかった.
【考察】
本研究では,前頭葉機能, 握力, 空間認知, FIMは自立度との相関を示し,先行研究と同様の結果であった.一方で, VIと高い相関を示した事は新な知見であり,術前の意欲が術後のストーマケア獲得を予測する際に有用であると考えられる.Itoらは,VIはFIM点数の改善と相関を示すと報告しており,意欲向上に向けた関わりがADL動作の一部であるストーマケア獲得に繋がる可能性が推測され,作業療法士の関わりとして重要である.一方,ストーマの受容度,不安は自立度と相関をみとめなかった.当院では,ストーマに対する不安が強い患者は看護師と共有し,術前からストーマに関する情報の伝達を十分に行っている.Metcalfは,ストーマの術前情報が充足している患者は術後の心理的な問題を発症する可能性が低いことを報告している.つまり,術前の患者の不安を多職種で共有し支援することで,術後の心理的問題を呈することなく,患者自身がストーマケアの獲得に繋がった可能性が考えられる.今回の報告において,術後の心理的変化の評価は未実施のため,今後の検討課題とする.