第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-2] ポスター:がん 2

Fri. Sep 16, 2022 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-2-3] ポスター:がん 2前立腺がん骨転移事例に対する作業に焦点を当て続けた作業療法~犬の世話をすることで人生への希望を取り戻した男性~

齊藤 隆一1池内 克馬2安田 友紀3古崎 勝也4西田 征治2 (1山口県済生会豊浦病院リハビリテーション科,2県立広島大学,3医療法人嘉誠会 ヴァンサンク ポルテ,4済生会吉備病院)

【目的】 前立腺がん多発骨転移による突然の対麻痺により,今後の生活イメージを持てず絶望的になっていたクライエントに対して,作業療法士(以下,OTR)は一貫して作業に焦点を当て続け介入した.結果,「犬の世話をする」という意味ある作業を捉え作業中心の実践により自宅退院を果たすことが出来た.急性期より作業に焦点を当て続ける介入の難しさと重要性を報告する.
【事例】 A氏.70歳代男性.診断名:前立腺がん,多発骨転移,第7胸髄損傷.歩行不能・感覚脱失にて当院入院となる(X日).病名及び生命予後を告知され,内分泌療法となった.胸髄損傷に対しては保存療法となった.前立腺特異抗原(PSA):4360.9ng/ml.第8胸髄節以下完全麻痺・感覚脱失.ASIA Impairment Scale:A.FIM:55点(運動21点,認知35点).HDS-R:30点.義母・妻と3人暮らし.介護保険:未申請.なお,本報告は対象者と家族に対し口頭及び文書にて説明を行い,文書にて同意を得ている.
【経過】
 第1期:今後の生活イメージを持てず絶望的で,意味ある作業の特定が難しい時期(~X+41日)
 OTRは介入当初よりCOPMなどを用い,A氏の意味ある作業の特定を試みた.「人の手を借りた生活になる」「家で暮らすのは無理」と今後の生活に対して悲観的な発言が多くみられ,意味ある作業の特定は難しかった.家族は自宅への退院を希望していたが,A氏は「家に帰っても家族に迷惑を掛けるだけ」と自宅退院に消極的であった.OTRはセルフケアやADL練習を行う中でA氏にとって活動的になる作業を探索し続けた.自宅環境を把握しA氏と共有することで具体的な生活イメージを持ち活動的な作業を確認出来るのではないかと考え,自宅への訪問を提案した.
 第2期:意味ある作業を捉え,作業中心の実践が促進され活動的になった時期(~X+90日)
 自宅訪問を実施した(X+42日).コロナ禍にてA氏は同行出来ず家族と会えなかった為,自宅退院を希望する家族のビデオメッセージと家屋内外の環境を撮りA氏に提示した.写真に写り込んでいた飼い犬をみた際,「入院する前は自分が世話をしていた」「また世話したかったなぁ」と涙を浮かべながら語った.OTRは犬の世話に焦点を当て,犬の世話の方法を聴取し環境調整案を具体的に提示して退院後の生活イメージを膨らませた.再度COPMを実施した結果,犬の世話・散歩・買い物に行く・排泄処理・入浴と自宅生活をイメージした作業が挙がった.X+53日にはPSA:3.57 ng/mlとがん治療の効果がみられはじめた.自己導尿や排便管理,屋内外の移動に主体的に取り組み,介護保険サービスの選択や自宅改修等の具体的方略を求める等,退院後生活をイメージした作業中心の実践が促進された.退院前カンファレンスでは,自ら退院後にしたい作業を語り,家族・ケアマネジャー・訪問看護師などに支援を求める様子もみられた.
【結果】 X+90日に自宅退院となった.FIM:93点(運動58点,認知35点).第2期と退院後(X+108日)のCOPM :(遂行度スコア:2.0→7.2,満足度スコア:2.0→6.8).介護保険:要介護4(訪問看護・訪問介護・福祉用具貸与).退院後は犬の世話・散歩・買い物に行く等の作業を継続し,新たにパソコンの使用等にも取り組み始めた.
【考察】 がん告知と突然の対麻痺により生活イメージを持てず絶望的になっている時期に作業に焦点を当てる事の難しさを経験した.しかし,一貫して 作業に焦点を当て続けたことにより,意味ある作業を捉えることが出来,期を逃さず作業中心の実践を促進することが自宅退院や退院後の作業の発展に繋がったと考える.