第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-2] ポスター:がん 2

Fri. Sep 16, 2022 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-2-5] ポスター:がん 2骨および脳への転移を認めた事例~夫への支援によって自宅退院後も ADL と QOL が維持された~

関 みなみ1塚越 大智1伊藤 駿1西村 輝1井戸 芳和1 (1信州大学医学部附属病院リハビリテーション部)

【はじめに】
 骨を含む遠隔転移が生じれば予後不良といわれ,骨転移治療の主目的は限られた生存期間に日常生活動作(ADL)を改善し維持することとされている.今回,右仙骨部の骨転移と転移性脳腫瘍による左片麻痺を認めた事例への家族支援によって,自宅退院後もADLとQOLを維持することができた経験を報告する.今回の報告は個人情報保護に十分留意し,事例に説明し書面で同意を得た.
【事例紹介(手術日をX日とする)】
 事例は60代女性で,夫と息子3人の5人で暮らしていた.また入院前は家事全般を行っていた.現病歴としては,6年前に甲状腺がんと診断され,再発を繰り返しながら,手術,放射線治療,化学療法を行っていた.X-2か月時に右下肢痛,左下肢の痙攣の自覚あり他院を受診した.精査の結果,右仙骨部と第5腰椎の多発骨転移,および右中心前回周囲の転移性脳腫瘍と診断されたが,コルセットと杖を使用しながら自宅での生活を続けていた.X-10日に転移性脳腫瘍が増悪し左片麻痺が出現したため当院へ救急入院となった.X-6日に作業療法を開始し,X日に開頭腫瘍摘出術が施行された.
【術前評価(X-6~X-1日)】
 右仙骨部の病的骨折のリスクが高いため,右下肢免荷が指示された.左片麻痺はBrunnstrom recovery stage(BRS)上肢Ⅰ,手指Ⅵ,下肢Ⅰと重度であった.認知機能はMMSE24点で見当識,計算,再生において減点を認めた.Barthel Index(BI)は10点で食事のみ自立していた.
【目標設定】
 作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)にて希望を聴取した結果,移動,排泄,家事,作業活動が選択された.満足度はすべて1/5であった.面談では「自分でトイレに行きたい」「できるだけ自分で家事をしたい」との希望があった.現在の身体機能と機能予後を踏まえて,短期目標は車椅子移乗の自立,長期目標はトイレ動作の自立,および調理動作と洗濯動作の部分的な自立とした.
【作業療法経過,退院前評価と支援(X+1~X+59日)】
 術後も右下肢免荷が継続指示されたが,徐々に左片麻痺が改善し,それにともない自立し車椅子移乗が行えるようになった.トイレ動作における下衣操作は,病的骨折を回避するため,床上でズボンと下着を脱いでからポータブルトイレへ移乗するようにした.家事動作は車椅子座位で食材を切る,皿を洗う,洗濯物を畳むことが可能となった.X+45日の評価では,左片麻痺のBRSは上肢Ⅴ,手指Ⅵ,下肢Ⅳ,BIは60点まで改善した.EORTC QLQ-C30の総括的QOLは 50点であった.ADOCでの満足度は移動4/5,排泄4/5,家事3/5,作業活動4/5まで向上した.しかし事例には認知機能障害があり,安全な動作の理解が不十分で突発的に右下肢に荷重してしまうおそれがあった.そこで退院後のADLとQOLの維持のために,夫にも適切な動作の指導を行った.また協議しながら生活環境に適した介護用品を選定した.X+57日に不安なく自宅へ外出できたため,X+60日に自宅退院となった.
【退院1か月後評価】
 BIは60点,EORTC QLQ-C30の総括的QOLは50点であり,退院前の状態を維持できていた.自宅にて調理と洗濯物畳みを継続していると聴取できた.
【考察】
 骨転移患者の自宅退院にはBIが60点以上,もしくは在宅家族が1人以上必要とされている.本事例には,片麻痺と非麻痺側への荷重制限,および認知機能障害があったが,家族への動作指導や生活環境の調整を含めた包括的な支援により,自宅退院後もADLとQOLが維持されたと思われる.