第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3

Fri. Sep 16, 2022 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-3-2] ポスター:がん 3家事と仕事復帰時期の調整を行った,膀胱がん周術期の一症例

井上 慎一1内田 智子2筧 哲也1西原 賢在3 (1神戸市立西神戸医療センターリハビリテーション技術部,2神戸大学大学院保健学研究科 リハビリテーション科学領域,3神戸市立西神戸医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】がんの周術期リハビリテーションは,エビデンス数も増加してきているが,作業療法の報告は少ない.今回,膀胱がん周術期の作業療法を実施し,知見を得たので報告する.なお,報告に際し書面で同意を得ている.
【事例紹介】70歳代前半の女性. 診断名は膀胱癌(cTaN0M0)であった.現病歴は,X-4日に入院し,同日より理学療法・作業療法(OT)を開始した.X日にロボット支援膀胱全摘除術・回腸導管増設術を実施された.社会的背景は,会社を家族で経営しており,経理業務等を行っていた.自宅は三階にあり,一・二階が会社関連施設であった.夫と2人暮らしで,家事は全て行い,仕事と家事で多忙であった.
【術前評価】X-4日に実施. 認知機能・運動機能とも年齢相応以上の印象.「仕事が忙しく,早く退院したい」と話した.痛み無し,MMTは四肢とも5,握力は右18.3kg,左18.7kg.片脚立位は左右とも15秒以上可能,Functional Ambulation Categories (FAC) 5,ECOG Performance Status(PS) 0,FIMは126点,Community Integration Questionnaire(CIQ)は,家庭統合10,社会統合7,生産性6,総合スコア23であり, 同世代と比較しても点数が高く活動的であった.
【経過】X+1日よりOT再開,尿管カテーテル挿入に伴い,ツーピースパウチを接続した.認知機能良好だが活気なく,「病人みたい.仕事はすぐには無理かもしれない」と発言した.創部痛はNRS安静時0-1,動作時9-10,座位時3で,座位継続すると増強した.OTでは鎮痛薬使用後に,痛みの許容範囲内で座位,立位,短距離歩行を実施した.X+8日痛みは鎮痛薬使用せずNRS0-1と軽減し,屋内動作と排便,病棟内歩行は自立した.退院後の生活は,必要性の高い家事を優先して行うことを提案,また,退院後の運動は1日30分のウォーキングを勧めた.X+13日に尿管カテーテル抜去,ワンピースパウチに変更し,尿破棄練習を開始,X+15日には手順に慣れた. 表情は明るくなったが自主練習を実施しない日が増え,退院直後から仕事に復帰するとの発言もあって,OTでは引き続き,生活には優先度を付けること,運動を継続することを提案した.
【結果】X+17日創部痛はNRS0-1,MMT四肢とも5,握力は右19.5kg,左20.0kgであった.片脚立位は左右とも15秒以上可能,FAC 5であったが,400m歩行後と階段昇降後に疲労感と頻脈を認めた.術前と比較した歩行の主観的遂行度は7割程度と話した.病棟内ADLは尿破棄動作含め自立, FIMは123点,PS1であった.X+18日に退院,X+55日に筆者が電話で退院後の状況を確認した.退院直後より自宅階段昇降と最低限の家事は実施可能,仕事は退院後3週間は実施できず,それ以降は1日に2時間程度行った.自主練習は未実施であった.倦怠感は感じないが,体力が主観で術前の7割程度であり,術前と同じ程度の活動は行えないと話した.
【考察】事例は退院後,最低限の家事遂行と部分的な復職は可能だったが,術後から提案した自主練習は未実施な状態であり,術後に低下した体力が十分回復しなかった.周術期は術後の身体の変化など,心的緊張が高まる機会が多く,事例は退院後の生活について,不安と楽観の間で揺れ動いていたと考えられる.これにより自主トレーニングの継続が未実施であったり,退院直後から術前と同様の活動量で生活しようとするなどの影響がみられたと推察する.その中でOTが,退院後の活動復帰時期や優先度の提案を続けたことは,事例が体力低下を自覚するなど困難さを感じた時,活動の優先度を決める参考になった可能性はあると考える.
【結語】膀胱がん周術期の心理社会的介入のエビデンスは非常に限定的であるが,術後の活動性低下の予防のために,活動,社会参加にアプローチする作業療法は,必要なケースはあると考える.