第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-3-3] ポスター:がん 3ストーマリハビリテーションにおける作業療法士の役割

上田 宏明1尾澤 政喜2田沼 志保1 (1北里大学メディカルセンターリハビリテーションセンター,2北里大学メディカルセンター皮膚・排泄ケア認定看護師)

【はじめに】ストーマリハビリテーションとは「ストーマと合併症の障害を克服して自立することだけでなくストーマ保有者の心身及び社会生活の機能を回復させることまたそれを促進する技術と方法である」と定義されている.また,錦古里らは,医療職,患者またはその家族ががん患者に対して作業療法士に期待・要望することはADLの改善であったと述べている.目木らは,がんのリハビリテーションにおける作業療法は精神機能と身体機能の両方に対して働きかけ,対象者がその人らしく生活できるように援助する役割と機能を持っていると報告している.2012年にがんと診断された患者のうち,65歳以上の割合は全体の70%で,がん患者の高齢者の割合は増加傾向で.その多くは既存疾患や合併症とともに地域で生活されている.排泄動作は重要なADLの1つであり,ストーマ造設後の手技や管理の獲得は自宅退院に向けて重要である.しかし,実際にがん患者に対する作業療法の多くは身体機能練習がほとんどで実際のADL練習やストーマ手技の獲得に向けた具体的な取り組みの報告は少ない.
【目的】今回,ストーマ手技の獲得に向けた身体機能障害のある高齢がん患者に対する作業療法の関わりと経過について報告をする.本報告に際して本人へ書面による同意と倫理委員会の承認を得ている.
【症例紹介】盲腸癌stageⅢbで結腸全摘とストーマ造設した60歳代の男性の患者である.C5/6/7の外傷性脊髄損傷による不全四肢麻痺など多くの既往歴があった.入院前の生活は,要介護2でデイケアを利用していたが,セルフケア動作は自立し,移動に車椅子とピックアップ歩行器を並行し,IADL動作も一部実施していた.同居の妻はくも膜下出血の既往があり患者の介助は困難な状況であった.自宅退院に際して患者自身でストーマ手技を獲得する必要があった.
【経過】術前に作業療法評価を行った.前頭葉機能Frontal Assessment Battery16/18点,図形模写4/4点,関節可動域はネックカラー着用のため頚部の可動域制限があった.握力は右6kg /左20kg,ピンチ力lateral pinch右0kg/左6kg,tip pinch右0kg/左3kgであった.上肢機能ではperdue pegboard test右0本/左8本,表在覚は右9/10点,左7/10点,左手全体に異常感覚を認めた.ストーマの受け入れはVisual analog scale(0を受け入れできていない, 10を受け入れている) 10/10cm,不安(0を不安なし,10を最も不安)5/10cmであった.ストーマ装具の操作を模擬的に行うと,キャップタイプの取り外しは可能だが,面板を切るハサミの使用は困難であった.機能の良い左手を主体とした道具と方法を提案し手技の獲得は可能であると予測した.評価結果を看護師と共有し術後の指導プランの検討を行った.術後は実際のストーマ装具交換時に看護師と作業療法士で,実施する環境と方法の検討を行った.頚部の屈曲制限を認めていたため背もたれの椅子にて前方に鏡を置くことで面板を貼る動作が可能であった.患者の使用しやすい粘着剥離剤はスプレータイプを使用し,洗い流し不要の泡タイプの洗浄剤に変更することを看護師と検討した.動作学習できるように手順表を作成し病棟で関わる看護師が統一した手順で実施できるように連携を行った.
【考察】本症例は身体機能障害があっても,環境調節や代償方法を提案し練習することで手技を獲得することができた.ストーマ手技は個別性が高いと考える.ストーマリハビリテーションにおける作業療法の役割は,身体機能,認知機能や社会的な情報から総合的にアセスメントしストーマ手技を獲得するための実施する環境,装具の準備や姿勢,使用する道具の種類を提案することであると考える.