第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-3-4] ポスター:がん 3がん患者のADLによる身体活動度の機械学習予測

小泉 浩平12大木原 徹也2下斗米 佳奈実2水村 翔2牧田 茂2 (1埼玉県立大学保健医療福祉学部 作業療法学科,2埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター)

【はじめに】がん患者の身体活動性低下は,がん由来の一次性低下と,治療に伴う二次性低下に分類され,病状は進行性の臨床的特徴を有することから,全身状態を捉えた練習立案が患者を支える.がん患者の全身状態や日常生活の活動度を示す指標にECOG Performance status(PS)による分類がある.PSは臨床上有用な指標として汎用されるが,5段階の順位尺度であり,全身状態の解釈には他指標と組み合わせられる(Inoue, 2010).ADL反映に有用な機能的自立度評価法(FIM)とPSの関連を検証した報告では,FIM効率,歩行項目で相関を示すが(Saotome, 2015),PS階層別にFIMの関連を検証した報告は待たれている.がん治療プロトコルはPSレベルに準拠するため,PSとFIMの特徴を捉えた練習立案は,継続した治療に寄与するかもしれない.近年,データを高次元空間にマッピングする関数を備えた非線形サポートベクターマシン(SVM)が,患者転帰を予測する方法として活用される(Davatzikos, 2005).この手法では,特定のデータを解析した結果が,対象となる群に相当するかという基準で分類する“classifier”が生成され,症状などの複雑な関係を明確に出来る.がん患者の階層別PSとFIMの関連を明らかにすれば,患者の身体活動を支援するための方略を考案する糸口になる.
【目的】がん患者のFIMスコアによって,PSを階層別に解析するためのSVMに基づくclassifierを作成することを目的とした.開示すべきCOIなし(SMUIMC倫理委員会承認19-243).
【方法】本研究は,治療を目的に入院したがん患者のうち,リハビリテーション開始時のPSが2以下,かつFIM総得点が115点以下で,身体活動が二次性に低下したと判断された68名(62±11歳,男性30名,女性38名)を対象とした後方視的観察研究.対象者は,PS 0-1群(61±12歳,39名)とPS 2群(65±10歳,29名)に割り付けられた.取得したFIMスコアは,非線形SVMによりスコアのパターンから2群の分布間のマージンを最大化する超平面が求められ,PSを階層に分類するclassifier生成に利用された.classifier生成のため,まずFIMスコアをランダムに抽出して,PS群ごとに1000個のブートストラップデータを作成した.その後,データセットをランダムに90%のトレーニングデータセットと10%のテストデータセットに分類し,SVM予測モデルのアルゴリズムがテストされた.この検証手順は10回反復され,FIMカテゴリー別の正診率によって解析した.正診率の臨床的有用性は,chance levelの値(0.5)を参照としWilcoxon signed-rank testで解析した.
【結果】FIMカテゴリーデータを機械学習させた結果,セルフケア(正診率:94.4±1.6%,95%信頼区間:89.1-92.3%,P < 0.01)と移乗(正診率:77.1±3.6%,95%信頼区間:72.6-83.7%,P < 0.01),移動(正診率:93.4±1.6%,95%信頼区間:90.0-96.3%,P < 0.01)のカテゴリーにおいて,PSを階層する弁別精度が高いことが示された.
【考察】本研究において,二次性の身体活動低下を来したがん患者のADLパターンの非線形SVMが,PSの階層性を予測できることを示した.特に,正診率90%以上でセルフケアと移動カテゴリーが正確に予測された.FIMスコアによるSVMの正診率を検証した研究では75-81%の精度で弁別された(Sale, 2018).我々の結果は,FIMカテゴリーに基づいて確立された分類モデルを使用することで高い弁別精度が得られた.ADLによるPSの機械学習予測は,特定のADLが達成可能なレベルと正確なPSの推定,機能レベルの変動に配慮した練習内容の立案が期待できる.がん種や病期の影響を含めた分類モデルの強化は更なる検証を要する.