第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3

Fri. Sep 16, 2022 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-3-5] ポスター:がん 3選択的頸部郭清術後の上肢機能障害は肩甲骨脊椎間距離と関連する

大木原 徹也1井上 準2澤田 凱志1伊藤 慎太郎1牧田 茂3 (1埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター,2埼玉医科大学国際医療センター頭頸部腫瘍科,3埼玉医科大学国際医療センター心臓リハビリテーション科)

【背景】頸部郭清術後には,副神経の損傷により僧帽筋麻痺を生じ,翼状肩甲や関節可動域制限が生じる(辻,2019).頸部郭清術後患者のQuality Of Life (QOL)を低下させる要因として副神経障害は重要な位置を占めており,術後のリハビリテーションの重要性が報告されるようになっている(Lauchlan D.T et al., 2008).頸部郭清術には,副神経を合併切除する根治的郭清術以外にも,根治性を損なうことなく郭清領域を省略し副神経を温存した選択的頸部郭清術(Selective neck dissection:以下,SND)がある.副神経を温存した症例においても,一時的な神経麻痺を生じると報告されている(Salerno G et al., 2002).そのためSND後のリハビリテーションの目的は,疼痛緩和や不動抑制,僧帽筋麻痺の回復を促進し,肩の運動障害を改善させることに集約される(辻,2011).手術後早期における肩関節の外転運動に影響する因子として肩甲骨脊椎間距離(scapulaspine distance:以下SSD)が示されている(石井ら,2016).SSDは肩甲骨の固定性,肩関節の外転運動に作用し,僧帽筋麻痺により延長すると考えられており,SSDの延長と肩関節外転可動域の関連の検証はされている.一方で,上肢機能障害と術後早期のSSDとの関連は明らかでない.もし上肢機能障害と術後早期のSSDとの関連が明らかとなれば,早期リハビリテーションの戦略の一助となるかもしれない.そこで,本研究の目的は,退院時の上肢機能障害と術後早期でのSSDの関連を明らかにすることとした.
【対象および方法】対象は当院にてリハビリテーションを処方された片側SND後患者14例(70±8歳,男性8例,女性6例)とし,術後1週間以内に術側肩関節の自動屈曲・外転関節可動域(°),SSD差(非術側SSD-術側SSD mm)を評価した.退院時の上肢機能はDisabilities of the Arm, Shoulder and Hand(以下DASH)を用いて評価した.退院時の上肢機能と術後早期のSSD差,肩関節可動域との関連を明らかにするために,退院時DASHスコア,SSD差,肩関節可動域をSpearman順位相関分析にて解析した(当院IRB承認番号2021-224).
【結果】実施した尺度の中央値(四分位偏差)は,DASHスコア6.8(11.3),SSD差8.5(8),肩関節屈曲角度107.5(25),肩関節外転角度77.5(56.2)であった.SSD差はDASHスコア(r=.59, p<0.05)と正の相関を,肩関節屈曲角度(r=‐.71, p<0.01),肩関節外転角度(r=‐.57, p<0.05)と負の相関を認めた.
【考察】本研究において,退院時の上肢機能障害の重症度は術後早期の術側SSDの延長に関連することを示した.このことから,術後早期のSSD延長の程度を評価することで,その後の上肢機能障害を予測できる可能性がある.それにより,術後早期のSSDの延長の程度に合わせた,早期からの作業療法プログラム立案に寄与する可能性が示唆された.症例数の増加,同側肩での術前後のSSD差比較,筋電図検査等による僧帽筋麻痺の客観的評価は今後の課題である.