第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-4-5] ポスター:がん 4造血幹細胞移植期の作業療法におけるストレスコーピング

阿瀬 寛幸12川上 陽子1吉澤 卓馬1袴田 裕未1藤原 俊之12 (1順天堂大学医学部附属順天堂医院,2順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】造血幹細胞移植(以下HSCT)に伴う入院加療は,長期に渡り本来の生活と切り離された院内で様々な不自由を強いられることがある.また,治療の有害事象には苦痛や疼痛を伴うものも多く,患者は様々なストレスに晒される可能性がある.当院ではHSCT前後の作業療法において,COPMや面接により,本人の役割や意味のある作業を尊重しながら入院中の作業遂行を支援できるよう実践しているが,これら苦痛や疼痛に伴うストレスにより,支援が一時的に滞ることもある.今回,症例の苦痛や疼痛に伴うエピソードから対応方法を検討し,考察を加え報告する.
【方法】当院にてHSCTを含む入院加療を行った2例の事例集積報告.入院加療中の有害事象や入院に対するストレスについて,ラザルス式ストレスコーピング・インベントリー(以下SCI)を用いて評価を行い,分析した.なお,本報告について倫理的な配慮を最大限行い,当院倫理委員会の承認を得た.
【介入経過】
事例1)50代女性,急性リンパ性白血病により,同種末梢血幹細胞移植施行.移植後,倦怠感や嘔気,口内炎の出現あり.身体的疼痛や苦痛に対して,他者との関りを自ら絶ち,表出を減らすことでやり過ごそうとしていることが多く見受けられ,SCIでは自己コントロール型のコーピングを認めた.そのため,医療者は訪室時に答えを求めない話しかけを継続し,リラクゼーションが図れるような環境づくりに注力した.同時に,気分転換が図れるアクティビティの提案を行い対応した.次第に口数も増え,自ら病棟内の歩行により体力改善を図る姿も見られるようになった.
事例2)60代男性,慢性骨髄単球性白血病により,臍帯血移植施行.運動については「別にオリンピックに出るわけじゃないんだから,何のためにやるのか,意味が分からない」と話していたが,1日も欠かさず提案した自己管理運動を継続していた.同様に看護師にも「訪室回数が多すぎてプライベートがない,いい加減にしてくれ」など攻撃的な発言を多く認めた.SCIでは逃避型のコーピングを認めた.そのため,医療者との軋轢が生じないよう,訪室回数を減らす工夫を説明し理解を得た.また,攻撃的な態度を受け続けることで医療者がバーンアウトし,対象者に不利益が生じないよう,医療者同士での表出の機会を増やしながら支援を継続した.徐々に表情や言葉も穏やかになり,退院後の生活について検討を再開した.
【考察】Holmesらは重大なライフイベントがストレスになると述べる一方,Lazarusらは日々の些細な苛立ちごとがストレスになる可能性を述べている.HSCTの加療では,生命の危機に伴う長期入院に加え,有害事象などにより,様々な身体的・心理的ストレスが加わる.有害事象については支持療法により対応するが,苦痛や疼痛の改善には時間がかかることも多く,対象者は,不可避な状況に対応しきれず,情動焦点型コーピングにより対応せざるを得ないことがある.特に治療中は家族など身近な支援者が少なく,医療者への攻撃や逃避によりサポートが十分に受けられない場合,孤立しやすい可能性があることも考慮しなければならない.これらを避けるために,ストレスが継続する場合は,その対処の支援についてとも対応が必要だと考えられた.今回の2事例もストレスが軽減した際には,表情も対応も穏やかとなり,再び退院後の生活に向けた協働が可能となった.以上より,HSCTに伴う作業療法実践において,強いストレスを認める場合,対処の方法を支援しながら「意味のある作業」の実現に向けて進めることが重要であると考えられた.今後はさらに,これらの効果について検討していくことが求められる.