[PF-5-1] ポスター:がん 5終末期がん患者に対する作業療法~作業療法介入時に SROT-TC を用いた一事例~
【緒言】
終末期がん患者に対する作業療法(Occupational Therapy:OT)では,患者の重要な作業を同定し支援する.しかし全身状態の悪化のため,患者の希望を十分に聴取できないことが多く,作業療法士(Registered Occupational Therapist:OTR)は,介入方針が立てづらい.今回,終末期がん患者に対するOTRの実践自己評価尺度(Self-Rating scale of Occupational Therapists for Terminal Cancer patients:SROT-TC)を用い,終末期がん患者に対するOTを経験し,若干の知見を得たので報告する.本報告に際し,患者に文書を用いて説明し,同意を得ている.
【SROT-TCについて】
OTRが1週間の終末期がん患者に対するOTを振り返り,果たすべき役割の自己評価が可能な尺度である.患者に負担を掛けずにOTRの役割が再確認できるため,結果を翌日以降のOTに生かすことが可能である.20項目5因子(Ⅰ:家族に対するアプローチ,Ⅱ:がん治療に対する支援,Ⅲ:患者の希望・意思の尊重,Ⅳ:他職種との協業,Ⅴ:患者の興味・関心へのアプローチ)からなる80点満点の尺度であり,構造的妥当性,内的一貫性が確保されている.
【事例紹介】
A氏,90歳代,男性.悪性黒色腫,転移性骨腫瘍・肝腫瘍,鼠径リンパ節転移である.10年前,悪性黒色腫に対し手術が施行され,自宅療養していた.X月Y日に貧血,全身疼痛,食欲不振,倦怠感が出現し,輸血,疼痛コントロール目的に入院となった.Y+3日,理学療法開始.座位訓練等を実施していた.疼痛,倦怠感が増強し,Y+11日,OT開始となった.OT開始時,Performance status(PS)4, Functional Independence Measure(FIM)23点(運動18点,認知5点)であった.A氏は個室にて終始,呻吟声を出し,苦悶様表情であった.OTRが声掛けると「全身が痛い」「しんどい」「何にもできなくなった」と泣く.マッサージ,四肢の他動運動等の受身的な介入を開始したが,A氏は自発的な言動が乏しく,希望の聴取が困難であった.そこでSROT-TCを実施すると24点であり,家族,他職種との情報共有への働きかけが必要であることが分かった.Vitality Index(VI)は1点であった.家族よりA氏は漁師であり,後輩に技術指導をしていたとの情報を得た.OT中,A氏に仕事の話をすると,A氏の呻吟声や泣き声は止まり,会話に応じた.OTRに礼を述べ,「マッサージ,気持ち良い」と言い,OT中に穏やかな表情で眠るようになった.Y+18日,SROT-TC31点,VI3点,FIM28点(運動18点,認知10点)と改善した.Y+24日,逝去された.
【考察】
OT介入時,A氏の全身状態が悪く,早急にOTRの行動指針を立てる必要があり,SROT-TCを実施したことで,OTRはスムーズに家族や他職種との情報共有が行えた.結果,A氏と漁師という仕事に関するライフレビューの機会を持ち,OT介入の糸口になった.A氏が身体的苦痛と共に,漁師や後輩育成という役割が遂行できないという喪失感や孤独感が生じていることをOTRが把握でき,それらを考慮した介入は,A氏が穏やかに過ごせ,意欲,認知FIMの向上に繋がった可能性がある.終末期がん患者のOTでは,評価に十分な時間を掛けることができない場合もあり,OTRが素早く介入方針を立てるためにSROT-TCは有効な手段であった.
終末期がん患者に対する作業療法(Occupational Therapy:OT)では,患者の重要な作業を同定し支援する.しかし全身状態の悪化のため,患者の希望を十分に聴取できないことが多く,作業療法士(Registered Occupational Therapist:OTR)は,介入方針が立てづらい.今回,終末期がん患者に対するOTRの実践自己評価尺度(Self-Rating scale of Occupational Therapists for Terminal Cancer patients:SROT-TC)を用い,終末期がん患者に対するOTを経験し,若干の知見を得たので報告する.本報告に際し,患者に文書を用いて説明し,同意を得ている.
【SROT-TCについて】
OTRが1週間の終末期がん患者に対するOTを振り返り,果たすべき役割の自己評価が可能な尺度である.患者に負担を掛けずにOTRの役割が再確認できるため,結果を翌日以降のOTに生かすことが可能である.20項目5因子(Ⅰ:家族に対するアプローチ,Ⅱ:がん治療に対する支援,Ⅲ:患者の希望・意思の尊重,Ⅳ:他職種との協業,Ⅴ:患者の興味・関心へのアプローチ)からなる80点満点の尺度であり,構造的妥当性,内的一貫性が確保されている.
【事例紹介】
A氏,90歳代,男性.悪性黒色腫,転移性骨腫瘍・肝腫瘍,鼠径リンパ節転移である.10年前,悪性黒色腫に対し手術が施行され,自宅療養していた.X月Y日に貧血,全身疼痛,食欲不振,倦怠感が出現し,輸血,疼痛コントロール目的に入院となった.Y+3日,理学療法開始.座位訓練等を実施していた.疼痛,倦怠感が増強し,Y+11日,OT開始となった.OT開始時,Performance status(PS)4, Functional Independence Measure(FIM)23点(運動18点,認知5点)であった.A氏は個室にて終始,呻吟声を出し,苦悶様表情であった.OTRが声掛けると「全身が痛い」「しんどい」「何にもできなくなった」と泣く.マッサージ,四肢の他動運動等の受身的な介入を開始したが,A氏は自発的な言動が乏しく,希望の聴取が困難であった.そこでSROT-TCを実施すると24点であり,家族,他職種との情報共有への働きかけが必要であることが分かった.Vitality Index(VI)は1点であった.家族よりA氏は漁師であり,後輩に技術指導をしていたとの情報を得た.OT中,A氏に仕事の話をすると,A氏の呻吟声や泣き声は止まり,会話に応じた.OTRに礼を述べ,「マッサージ,気持ち良い」と言い,OT中に穏やかな表情で眠るようになった.Y+18日,SROT-TC31点,VI3点,FIM28点(運動18点,認知10点)と改善した.Y+24日,逝去された.
【考察】
OT介入時,A氏の全身状態が悪く,早急にOTRの行動指針を立てる必要があり,SROT-TCを実施したことで,OTRはスムーズに家族や他職種との情報共有が行えた.結果,A氏と漁師という仕事に関するライフレビューの機会を持ち,OT介入の糸口になった.A氏が身体的苦痛と共に,漁師や後輩育成という役割が遂行できないという喪失感や孤独感が生じていることをOTRが把握でき,それらを考慮した介入は,A氏が穏やかに過ごせ,意欲,認知FIMの向上に繋がった可能性がある.終末期がん患者のOTでは,評価に十分な時間を掛けることができない場合もあり,OTRが素早く介入方針を立てるためにSROT-TCは有効な手段であった.