第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-6] ポスター:がん 6

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-6-1] ポスター:がん 6術前化学療法を行った乳がん患者の術前後QOLとROMの変化

山下 絵理乃1加藤 るみ子1田尻 寿子1田尻 和英1伏屋 洋志1 (1静岡県立静岡がんセンター)

【序論】
乳がんは,我が国の女性の癌の罹患率第一位の悪性腫瘍である.術前化学療法(以下NAC)を施行された乳がん患者は,一般的に手指のしびれや血管炎といった有害事象を生じる可能性があることはよく知られている.臨床においてNACを施行された症例は,術前後においても有害事象や肩関節可動域(以下ROM)制限が高度な印象がある.しかし,NACに着目し,術前後Quality of life(以下QOL)やROMへの影響を検討した報告は少ない.
【目的】
NACを施行された乳がん患者の術前後QOL,ROMの変化をみること.
【方法】
2021年7月~同年9月に当院にて,乳がん全身麻酔下手術の周術期作業療法を実施した女性患者56例を対象とし, NACの有無で2群に分け,電子カルテから後方視的に術式(腋窩リンパ節郭清術の有無)と下記の評価項目を抽出した.調査項目は, 1.QOL : EORTC QLQ C-30,2.肩ROM:自動屈曲・外転角度とした.NACを施行された症例(以下NAC群)は,NACの有害事象(しびれ,血管炎)の有無を確認した.統計処理は,NAC群とNACを施行されていない群(以下Non-NAC群)の間における差を検討するために,術式との関連は,χ2検定を用い,各調査項目の比較には,ウィルコクソンの符号順位検定を用い,有意水準は5%とした.本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に則り,当院の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】
56例のうちNAC群は13例,Non-NAC群は43例であり,年齢はNAC群56.2±9.7歳,Non-NAC群58.6±12.7歳で差はみられなかった.術式では,56例中14例で腋窩リンパ節郭清術が施行されており,その内NAC群10例,Non-NAC群4例でNAC群と腋窩郭清術には有意な関連がみられた(p<0.001).調査項目1.QOL:術前では,下位項目の全項目で両群間に有意差は認められなかった.術後では,下位項目のPhysical functioning(NAC 1.3 vs non-NAC 1.1, p=0.05),Role functioning(NAC 1.4 vs non-NAC 1.1, p=0.04),Emotional functioning(NAC 1.3 vs non-NAC 1.7, p=0.02),Dyspnea(NAC 1.7 vs non-NAC 1.2, p=0.04)の4項目で有意差が認められた.2.肩ROM:術前では自動屈曲,外転共に有意差が認められなかった.術後では,自動外転(NAC 152.3° vs non-NAC 125.8°, p=0.04)で,有意差が認められた.NAC群では,手指のしびれ10例(77%),血管炎10例(77%)に有害事象の訴えがあった.
【考察】
今回の研究では,NAC群とNon-NAC群の両群間において術前ROMでは,有意差が認められなかったが,術後ROMでは有意差が認められた.これはNAC群で一般的にROM制限が強く生じるとされる腋窩郭清術を施行された例が有意に多かったことも一因と考えられる.同様に,QOLにおいても術後にNAC群で有意に低下が認められた.その内,Physical functioningやRole functioning,Dyspneaなどで有意差が認められたことから腋窩郭清術のみの影響だけではなく,NACによる手指のしびれや血管炎などの有害事象が術後により顕在化した可能性も考えられる.周術期作業療法において,特にNAC症例では,術後のROM制限のみでなく,NACの有害事象を考慮したADL・IADL指導も必要である可能性が示唆された.