第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-1-4] ポスター:精神障害 1新型コロナウイルス感染症罹患後の職場復帰へのプロセスとメンタルヘルスに関する考察

小砂 哲太郎1浪久 悠1真栄里 仁1渡邊 彰文1 (1国立病院機構久里浜医療センター)

【はじめに】
 COVID-19流行以前より,医療従事者はその他の労働者と比較して心理的ストレスが高いことが知られている.加えて,コロナ禍で医療従事者の精神健康が特に悪化したことが示されている.今回,演者は新型コロナウイルス感染症に罹患した経験から,職場復帰の過程で生じる困難さや支援の重要性を感じる機会を得た.そこで今後COVID-19を含めた感染症等に罹患した医療従事者が安心して職場に復帰できるための示唆を得ることを目的とし,以下にその経過と考察を報告する.
【背景】
 演者は精神科で勤務する作業療法士であり,経験年数は15年,現在の所属には約5年勤務している.発症日前日,夕方から夜間にかけて体のだるさや熱感症状が出現,就寝時の体温は38℃を超えていた.翌朝39℃を超えており,病院に欠勤の連絡を入れ,午後に発熱外来を受診.抗原検査により新型コロナウイルス感染症陽性(オミクロン株)の診断を受けた.
【経過】
 診断後,職場や家族へ連絡を行い,職場とは濃厚接触の可能性がある対象者の情報共有や休養期間中の業務の確認等を行った.翌日以降,保健所への状態報告とともに,日々職場長と体調の確認や業務確認の連絡を取り合う.健康観察期間には,他の病院職員や家族の罹患も判明し,心理的に自責感が強まっていった.この時期は必要以上にインターネットの情報に触れ,不安が強まっていった.職場長より適宜情報共有がなされ,療養期間中のプログラムや院内の必要最小限の情報が届けられ,気持ちが落ち着いていった.
 観察期間終了前には,復帰後の業務を想像し,「どのように取り戻せるか」「処理できるか」を繰り返し,計画を立てて過ごしていた.復帰後1週間は,各部署への連絡や業務の調整を行い,休養期間の業務を取り戻そうという思考が強く働き,体力が低下しているにも関わらず性急さや焦燥感から細かなミスが目立っていた.患者対応等も重なり休憩時間も気持ちが落ち着かず,帰宅後も切り替えることができずにいた.そうした日々の中で職場長からの業務調整の支援や同じ期間に療養していた職員の復帰,担当病棟の職員との良好なコミュニケーションの積み重ねがあり,復帰後1か月経過した頃より心身状態を取り戻すに至った.
【考察】
 Kiselyらにより感染症流行時における医療従事者の精神健康の悪化および保護要因について報告されている.その中では①支援的な同僚の存在や②業務中の頻回な短時間の休憩などが述べられている.今回,療養期間中の日々の連絡や復帰後の業務調整等の良好なコミュニケーションが復帰を支援することとなったことが示唆される.しかし一方で,復帰にあたっては必要以上にインターネットに暴露したり,休業中の業務を取り戻そうとしたりする思考から業務過多になり,精神健康を崩すきっかけを作っていたと振り返る.今後,感染症など様々な危機的状況を契機として社会の中でメンタルヘルスが問題となることが予見され,適切な職員のセルフケア教育や支援的な職場環境が重要であると考えられる.